見出し画像

【良書】北野唯我著『天才を殺す凡人』

この本(2019/1/16・日本経済新聞出版社)のあとがきには、このように書かれています。

「なぜ、この本を書いたのか?」
と問われたら、私はこう答えます。
「人の可能性を阻害するものに、憤りを感じるから」です。

読んでから1年ほど経ちますが、印象に残っていて今も時々思い出します。

当時、第1作の「転職の思考法」に続き「この本もきっと面白いだろう」と思い、この本を手に取りました。期待通り楽しんだ後、このあとがきに「理不尽に対して一緒に怒ってくれる人が居る」嬉しさを感じて、北野さんのファンになったのでした。

「天才を殺す凡人」とはなにか

本書は90分程度で読める小説です。それでいて、「自分を知り、他人を知ることで、新しいものさしを得る」ことができます。

具体的には、個性を「天才」「秀才」「凡人」の3つに例えて、それぞれの特性を分かりやすく説明しています。小説という体裁を取ることで、単なる占いや診断のように「あなたは○○だ。だからこうだ」で終わらず、「どうやって活かしたり、うまく付き合っていけばいいのか」を理解出来る仕掛けになっています。

天才・秀才・凡人の関係性

天才(創造性)
独創的な考えや着眼点を持ち、人々が思いつかないプロセスで物事を進められる。
秀才(再現性)
論理的に物事を考え、システムや数字、秩序を大事にし、堅実に物事を進められる。
凡人(共感性)
感情やその場の空気を敏感に読み、相手の反応を予測しながら動ける。

天才なしでは新しいものを生み出せず、秀才なしではそれを「誰にでも、何度でも扱える」状態に整えられず、凡人なしでは人々からの共感を得られない。
三者はこのような関係性で、互いになくてはならないものになっています。

また、このようなタイプ分けがあると「自分は○○になれない」というコンプレックスのような感情を抱きたくなってしまいがちですが、本書では、「誰の中にも天才がいて、秀才がいて、凡人がいる」と述べています。
一見そう感じられないとしたら、うまく付き合えずストッパーを掛けてしまうから。構造的に天才は「殺されやすく」、物語の中でこう説明されています。

「夜中に、めちゃくちゃ面白いことを思いついてみて、メモった。明日すぐに発表してみようと思う。ワクワクする。だども、翌朝見直してみたら急に『全然筋が悪そう』に見える。結果、昨日の自分がなんかバカみたいで恥ずかしく思い、メモを削除する
(略)
このときのプロセスってのは、頭の中で、天才→秀才→凡人の三者が、順番にポコポコ出てきているんや。君の中にいる『天才』が思いついたアイデアを、社会的な基準やロジックで『良いか悪いか』を判断するのが、秀才や。そして最後に『恥ずかしい』とか『周りからどう思われるか』と感情で判断する。結果、やっぱりやめとこう、と凡人が出てきてしまう」

(余談ですが、「転職の思考法」も物語仕立てで、主人公の苗字が本作と同じです。それぞれ独立した作品ですが、順番に読むとパラレルワールド的な楽しさもあります)

あらすじ

主人公は、あるITベンチャーの広報担当・青野。天才起業家 上納アンナの才能に惚れ込んで創業時から勤めているが、会社の業績はここ数年下降していて、給与も右肩下がり。なんとなく転職も考えてみたが自分が何をしたいのかもよく分からない。
あるとき、創業社長の上納アンナが週刊誌でバッシングされたのをきっかけに、「もう彼女の時代は終わった」と言い出す同僚たち。青野は「彼女に惚れ込んで10年やってきたはずが、広報として何もできていない」自分の無力さに打ちのめされる。
飲み屋帰り、土砂降りで誰もいない深夜の渋谷。
上納アンナを救いたい。
そう心の中で叫んだら、目の前のハチ公が「その願い、叶えてやるワン」と返事をした――。

読後、物事の見え方が変わった。

本作を読んで以降、物事の見え方が変わりました。
(物事の大小に関わらず)何かを成し遂げている人は、そうなる以前は、何者かすらよく分からない変わり者に見えたり、何の役に立つのか分からないはみ出し者に見えたりします。
一見レッテル貼りしてしまいそうな出来事があっても、一旦立ち止まって、冷静に捉えようと意識できるようになりました。また、色んなものや人を「天才を殺す凡人」のフレームワークに照らし合わせることで、物事が俯瞰しやすくなりました。

分かりやすい例としては「アナと雪の女王」のエルサとアナ。たまたま身の回りの人に無い特技(魔法の力)があるばかりに、それに振り回されて孤立するエルサはまさに「天才」で、ひたすら理解者であろうとし結果的に彼女を救うアナは「凡人」かつその究極系の「共感の神」そのものです。魔法の力自体は何も変わらないのに、エルサがそれをうまく扱えるようになったことで、氷に閉ざされていた王国が幸せな風景を取り戻したさまはまさに、才能と向き合う成長物語です。

もしアナが、「いま現在理解できないこと」と「その出来事(あるいは人)に対してどう感じるか」を混同していたら。
もしエルサが、雪山でも過去の失敗を引きずりつづけ、自分の個性を否定し続けていたら。アナ雪はバッドエンドまっしぐらだったでしょう。

他のキャラも同様です。オラフはいつも素直だし、クリストフは王子様ではないけれどそんな自分を否定しません。だからこそ、アナを元気づけ、物語に彩りを添えています。

最後に

この本を読んだ時点では全く想像してませんでしたが、私も人材業界に身を置くこととなりました。「キャリアのことは学校でほとんど教えてくれないのに、(現在仕事をしていない人含め)老若男女どんな人にも大切すぎる。それを多くの人が自分ごととして感じられるようになったら、世の中がぐっと良くなるのではないだろうか?」と感じます。

それゆえに、このような本当に大事な知恵が、数千円払えば誰でも平等に享受できる“書籍”という形で世の中に提供されていることの凄さをひしひしと感じます。もっといろんな人に届くよう、テレビドラマとか、違う媒体でも楽しめるようになったらいいな。

いいなと思ったら応援しよう!