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「SCIENCE FICTION」発売後の宇多田さんを追う⑧−4

こんにちは。自己満足な毎日をすごしたいです。

「SCIENCE FICTION」発売後の宇多田さんを追う⑧−4です。
⑧シリーズでは、4月21日(日)に放送されたEIGHT JAM、デビュー25周年 宇多田ヒカル特集!!を紹介しています。
前回は、「光」についてスタジオでのやりとり、宇多田さんの楽曲制作についてメロディーと歌詞ができる順番についてを見ていきました。
今回はスタジオでの「誰かの願いが叶うころ」「Gold〜また逢う日まで〜」「あなた」についてのやりとり、そしてインタビューでの「『あなた』の『ai』」に、作詞の苦労や締め切りついて見ていきましょう。
以下、宇多田さんの発言を⭐️、インタビュースタッフさんの発言を■個人的な考えは🔹で記載しています。


この曲を聴いてほしい

「誰かの願いが叶うころ」

選者は中村佳穂
2004年リリース、歌の独自のアクセントが素晴らしい!!という「誰かの願いが叶うころ」。サビの歌唱の独自のアクセントに注目

中村佳穂コメント
歌ってみると気付くのですが「だれ↑かのねが↑いがか↑なうころあのこがな↑いてるよ」とアクセントがついている場所がオーソドックスな場所よりズレている事が曲に、前に進む力を与えていると思います。

🔹この曲がこういうものだ、として聴いていたので、全然気づいてませんでした。


「Gold〜また逢う日まで〜」

続いては、Yaffleが曲の構成が素晴らしいと絶賛する昨年(2023)リリースされた1曲「Gold〜また逢う日まで〜」

Yaffleコメント
この曲は序盤ずっとビートレスで進んでいきますが鳴っていないビートを感じさせる歌唱なので、とてもグルーヴを感じます。後半一転してアグレッシブなスタブベース(EDMで使われるアクセント的な音)やASMRにも通じるようなモダンなパーカッションで作られる展開…
単純なループ物っぽくしない所が宇多田さんらしくて素晴らしいと思います。

🔹「映画キングダム」の主題歌ですよね。後半部分からできたという。そこから前半のバラードっぽい部分ができたんですよね。そういうところも序盤がビートレスであることと関わりがあるのでしょうかね?


「あなた」

続いては、吉澤が究極の愛の歌と言う2017年リリースの「あなた」

吉澤嘉代子コメント
人が人に抱く究極の愛の歌だと思います。どんなラブソングも、詰まる所この歌に辿り着く…と思ってしまうほどに完璧です。

いしわたり淳治コメント
母音「ai」の言葉が多用されているのが印象的です。実は一般的なポップスの歌詞に使っても違和感のない母音「ai」の言葉となるとそこまで多くありません。また、韻に縛られると言い回しが湾曲し肝心な言いたいことが何なのか伝わりにくくなってしまいがちです。それらを踏まえて聴くとこの歌の格の違いに気付くと思います。
言いたい事が偶然に韻を踏んでいたかのような自然さと、それによる力強いメッセージ。これだけ同じ音の韻を踏みながら母から子への愛が説得力を持ってストレートに響く… 言葉に対するバランス感覚の良さに驚かされます。

吉澤嘉代子
母から子への歌だ思うとぐっとくるんですけど、でもそれだけじゃなくて、普遍的な愛の歌だなと思っていて。「ただの数字が特別になるよ」とか「肌の匂いが変わってしまう」という、日常的なすごく身近なフレーズと、「業火の谷間」「荒野の真ん中」っていう心象風景にぶっとぶことによって、たくさんの人の心に重なる、どんな人間関係においても究極のラブソングに昇華しているなと思います。全ての愛の歌だなと思いました。

いしわたり淳治
「ai」の母音、この歌すごく多くて、「あ」の後に「い」がきてるっていう純粋なただの羅列でいったら、数えたら70近くあったんですよ。これ、ちょっと異常な数で。どうしてこんなことが起きてるのかなって、僕なりに考えて、できる限り「愛(ai)」を詰め込んだんじゃないかなって僕は思ったんですよ。でも、母音の制約だったって、今わかりました。

村上信五
ダブルネーミングであったのかもわかりませんよ。制約をかけてご自身で。それで発見しちゃったから。なんか考古学者みたいになってる

🔹究極の愛の歌だとか、70近くある「ai」を数えるとか、吉澤さんもいしわたりさんも、十分ぶっ飛んでますよね。これも映画「DESTINY 鎌倉ものがたり」の主題歌でしたけれど、ものすごくマッチしていました。確かに、宇多田さんとしては母音の制約で「ai」が多くなったと思うのですが、いしわたりさんの「できる限り『愛(ai)』を詰め込んだんじゃないかな」っていう考察も素敵です。だって、本当にあなたへの愛が詰まっているように感じるんですもの。

ここでインタビューへと戻ります。


Q.「あなた」aiの母音について

■「あなた」についていしわたりさんからお話をいただいたことが少し長いんですが、読み上げさせてもらいます。
「多用されている母音『ai』が印象的。一般的なポップスの歌詞に使っても違和感のない母音『ai』の言葉となるとそこまで多くなく、また、同じ韻を意識し過ぎると、言いたい事が何なのか伝わりにくくなってしまいがち。しかしこの曲は、言いたい事が偶然に韻を踏んでいたかのような自然さとそれによる力強いメッセージを感じます。言葉に対するバランス感覚の良さに驚かされます。日本語のみで挑んで、これだけのクオリティを実現しているのは本当にスゴいことです」
と、いしわたりさんが。

⭐️ありがとうございます。

■で、そこで質問なんですが
Q宇多田さんはどこまで意識された上でこの歌詞を完成させたのでしょうか? また韻を踏む際のリズム感やバランスなどはどのように意識していますか?

Q.「あなた」aiの母音について

⭐️そこはメロディーがやっぱり気持ちいいじゃないですか(あなた以外なんにもいらないのメロディーのところ)。「ai」「ai」でやりたいなって思って。そこは意識して、そういうふうに終わる言葉っていうか行を考えていきました。
「あなた」は特にコーラス(サビ)とかバース(Aメロ)の中で同じメロディーのところは、それがまた同じメロディーが繰り返されるときに、同じ母音で出来るだけ… 韻を踏むのと同じなのかなそれって。なんていうんだろう。同じ母音「ai」が続くとかじゃなくて、例えばそれ以外の細かいところも、ここでわって下がるこのメロディーのところは、同じ母音でセカンドバース(2A)のところも揃えてたり。結構頑張った記憶がある!!んですけど、その中で、例えばこう、「業火」のところとか、同じメロディーに飛んでいったら、そこも「o-」(同じ母音)とかになってると思うんですよね。

ポイント
同じメロディーの歌詞は1番、2番、3番でも同じ母音
1番 燃え盛る(u)業(o-o)火(a)の(o)谷(a)間(a)が(a)待(a)ってよ(o)うと(o) 守り(i)たい(i)のは(a)あ(a)な(a)た(a)
2番 人寄せぬ(u)荒(o-o)野(a)の(o)真(a)ん中(a,a) 私(a)の(o)手を(o)握り(i)返し(i)た(a)あ(a)な(a)た(a)
3番 晴れ渡る(u)夜空(o-o-a)の(o)光が(a)震えるほ(o)ど(o) 眩し(i)い(i)のは(a)あ(a)な(a)た(a)

画面での説明です

🔹「ai」だけじゃなかったの?となりました。確かに、韻を踏んでいて言葉のシャワーを浴びている感じで気持ちがいいんですが、ここまで揃えられているとは。すごすぎます。


Q.作詞での揃える母音について

⭐️それを出来ないよって、これで揃えられるかな?ってちょっとは思うんですよ。思いながら、でも、考えて考えて考えていくと、より特別な、ハマったときに、何でもよかったらパッと出てきた言葉にしちゃってたかもしれないけど、そこを悩んで、もっと選んで選んで、探して探して、すごい探した中での特別な言葉が見つかる気がするんです。

🔹創作活動の奥深さを教えられるというか、妥協しないからこそ生まれるものの素晴らしさというか。こうやって書いている文章でも、この言い回しでいいのかな?もっとぴったりな表現はないのかな?と突き詰めていくことも必要なのかもしれない、と気付かされます。

■宇多田さんの苦労って言葉で言っていいのかわかりませんけど、試行錯誤はものすごい大変な時間がかかったりするんじゃないですか


Q.作詞の苦労は

⭐️大変っていうか、それが私すごい好きです。そこは。歌詞が一番。今、多分、終わらせなきゃいけない歌詞が無いからそんなこと言ってるんですけど、自分で思った。いつも歌詞書いてる時は、「本当に辛い」「歌詞が1番辛い」って周りに言ってて、苦しい、最後の方の歌詞が辛い辛いって言ってますそういえば。だって、一番大事なことって一番言いにくいことだと思うんです。言いにくいっていうか、言うのが難しい。なんかスティーブン・キングの何かで見たんですよね、発言で。
「The most important things are the hardest things to say. (最も重要なことは、言うのが最も難しい)」
って、インタビューで言っていて。一番伝えなきゃいけないことは、大事なこと…
本当、私も、もう言い切ったこの歌詞で、まだ何行か完成していないところがある最後の方。それが終わりじゃなくて、どこかばらばらってあるんですけど。そこでもう、言うべき事っていうか、出る物はこの曲において、この物語っていうか、このテーマの中でもう言った気がするし、ただ行、言葉数を埋めるわけにいかないから、大事なこと、意味があることを出さないといけないって、そこをなんか絞ってる感じ、もう出ないみたいなタオルから。で、そこで、でも諦めないでずっと考えた挙げ句に「わっ、あそうか!!」っていうのが出てきて自分で全くその時って予想してなかった、自分がそっかって思える自分にとっての発見がある。考え方とか、発想の転換とかが出てきて、そこで自分でも、あ、このために、これで曲が完成だって思える。

🔹特にアルバム作成の佳境のときは苦しんでいると、いろいろなインタビューでもおっしゃっていますよね。終わらせないといけない歌詞がないからと言って、その苦しみを何度となく味わってきているのに、それでも作詞が好きだと言えるのは、宇多田さんが産みの苦しみを知っていて、それを超えた先の景色も知っているからなのかもしれませんね。


Q締め切りについて

■宇多田さんのような方でも締め切りの苦しみというか

⭐️焦りますね。時間かければ出来るようなものじゃないわけじゃないですか。私、釣りみたいなものだなと思うんですけど、作詞って。待ってることが仕事で、釣れそうな場所、海流の流れとか天候とかを読んで、自分の中の。釣れそうな場所に行くことはプロっていうか、やってればわかってくる、上手になるんですけど、あとはいくら待っても釣れないときもあるし、常に関係ないことをしていて、子どもの学校の送り迎えをしてようがお風呂入ってようがテレビ見てようが何してようが、友達とご飯してようが、どっかの頭の奥では釣りしてる自分がいて、ずっと待ってて。それが、待つことが仕事かなって。オンとかオフとかがないと思うんですよね。忍耐強くしてくれるプロセス

🔹釣りかぁ…せっかちだと無理ということですね。そもそも、慌てたところでイメージがわかないとか、何も出てこなければ進めないわけですものね。でも、何をしていても頭のどこかで歌詞のことを考えている(釣りをしている)ってすごい。

■変な話、スタッフさんたちは早くこう…

⭐️スタッフさん達はちょっと寿命を縮ませてるかも!!って本当に思う。アルバムの最後の1曲のマスタリング決まってるのに、ミックスの日程ここまでなのに私がボーカル足したとか、まだできてないとか。でも、はい、それがとてもありがたく思ってます。

🔹昔から一緒にやっているスタッフさんも多いようですし、だからこそお互いに信頼しているのでしょう。それでも、締め切りが決まっていると焦りはあるのでしょうね。個人的には、仕事に追われるのが嫌で、どちらかというと、こっちから仕事を追っていく、先回りしていくタイプなのですが、急な仕事が舞い込んできたり、自分のキャパをオーバーするくらいの仕事量になると、いやーとなってしまいます。そんな気持ちと、ちょっとだけ似ているのかな?


4月21日の最後、スタジオへ

いしわたり淳治
すごく貴重な話を聞けたなって思ってます。それと、やっぱり強い人だなって思いました。ていうのも、宇多田さんって自分の音楽を自分で作ってるわけで、決めたルールなんて自分で変えれるわけじゃないですか?でも、そこに誠実に最後までこれだけの熱量を持って、自分で決めたルールに自分で向かい続けるっていうことができてるって、すごいことだと思います。僕が例えば宇多田さんに、ここは絶対「ai」なんですって言われたら、それはもう考えますけど、本人であればそれを変えることも本来、出来るわけだから。それをしないんだということが、こういう名曲を生んでるんだなということを改めて思いましたね。

古田新太
宇多田ちゃんはもっと天才的な作り方をしてるのかなと思ってた。降ってきたみたいな人もいるじゃない?そういう人なのかなと思ったら、やっぱすごく細かく自分で指定したものに合わせている、そこで釣りをするように待つというね。これは本当に、あ、そうなんだ。天才だと思ってたけど、すげー職人だったんだなって。

村上信五
そうですよね。日常ときちんと向き合いながら。常に、頭の中でね

🔹いしわたりさんが、自分が作るものだからルールなんて自分勝手に変えられるし、作れるのに、それをしないことを強さと表現されているのを聞いて、あ、そういうことも強さなんだなと。芯を曲げないというか。それに、古田新太さんが、宇多田さんのことを職人だと言っていることに対して、あーそうか、と腹落ちしました。いつも、すごい才能だなと思っていましたが、才能なんて磨かなければ輝かないわけで。

ナレーション
次回、さらに深みを増す宇多田ヒカルのインタビュー

今回はここまで。次回は、翌週4月28日(日)に放送されたEIGHT JAMを見ていきます。
最後まで読んでいただき、ありがとうございました🙇‍♀️

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