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垂直型リーダーシップが共有リーダーシップに及ぼす影響について

組織や企業は、この数十年間の間にかなり変化しています。これまではトップダウン型やヒエラルキー型の組織で、指示命令系統のコミュニケーションだったものが、ティール組織やホラクラシー型組織(社内に役職や階級のないフラットな組織形態)など、多様な組織形態があらわれ始めました。
それに伴って、リーダーシップ研究の動向も変化してきています。

今回取り扱う論文に出てくるのは、垂直型リーダーシップと、共有リーダーシップです。(分析等に興味がない方は、考察をお読みください!)

垂直型リーダーシップとは、公式に任命されたチーム内またはチーム外のリーダーによる垂直方向のリーダーシップを指します。

共有リーダーシップとは、リーダーシップの役割を共有することで集団を方向づける集団成員の相互作用と定義されています(Hiller et al.,2006)。

この研究の目的は、垂直型リーダーシップが共有リーダーシップに与える影響を検討することです。

一見、並列的な関係に見えるリーダーシップですが、垂直型リーダー
が共有リーダーシップに影響する可能性を探っていきます。

論文名:垂直型リーダーシップが共有リーダーシップに及ぼす影響/井奥智大
さん、釘原直樹さん


先行研究

そもそも、垂直型リーダーシップが、共有リーダーシップに影響を与えたという先行研究があるのかについて、見ていきましょう。

Pearce&Sims(2002)が提唱した共有リーダーシップ概念的枠組みでは、垂直型リーダーシップは共有リーダーシップに影響を与える先行要因として捉えている。次の2つの重要な理論的枠組みは垂直型リーダーが共有リーダーシップに影響する可能性を示唆している(Pearce & Sims, 2000)。

第1 に、社会的認知理論(e.g.,Bandura, 1986)では、共有リーダーシップは観察学習の中で発達すると考えられる。すなわち、小集団成員が公式リーダーを模倣するようになり、個々の成員がリーダーシップを発揮するようになる可能性がある。
第 2 に、社会的勢力(e.g., French & Raven, 1959)理論の枠組みでは、小集団内において勢力の諸要素から生じる相互影響過程から共有リーダーシップが発達するとされる。つまり、公式リーダーと小集団成員間において必ずしも一方だけが勢力を持つとは限らず、相互影響過程を経て小集団成員がリーダーシップ機能を代替するようになる可能性がある(Pearce & Sims, 2000)。
この 2 つの理論的枠組みから、垂直型リーダーは集団内で共有リーダーシップの発現に正の影響を与える可能性が予測される。

『垂直型リーダーシップが共有リーダーシップに及ぼす影響 井奥,釘原著』より抜粋

これらの先行研究を踏まえ、垂直型リーダーシップが共有リーダーシップに与える影響を検討しています。

調査対象者


2016 年 2 月~4 月に調査を実施した。関西における塾5校から協力を得て、計87名の生徒に回答を依頼。

質問項目

共有リーダーシップ
生徒の共有リーダーシップ測定項目(Ioku, Kugihara, & Uchida, 2016)で検討された下位項目である計画と組織因子6項目、問題解決因子6項目、サポートと配慮因子7 項目、発達とメンタリング因子7項目を用いた。

垂直型リーダーシップ
学級担任の垂直型リーダーシップを測定するに当たり、Ioku et al.(2016)の共有リーダーシップ測定項目の中の下位項目である計画と組織因子6項目、問題解決因子6項目、サポートと配慮因子7項目、発達とメンタリング因子7項目を修正したものを用いた。

結果

簡易的に分析結果を示します。より詳しい分析結果は、ぜひ、論文をお読みください。

・共有リーダーシップ(全体)を従属変数とした重回帰分析の結果、Table5に示すように、垂直型リーダーシ ップの下位因子であるサポートと配慮が共有リーダーシップに正の影響を与えていた。

・学級担任の垂直型リーダーシップが生徒の共有リーダーシップのどの側面に影響を与えているかを検討するために、共有リーダーシップ下位因子ごとに重回帰分析を行った結果、次の2点が明らかとなった。
第1に、学級生徒のサポートと配慮を従属変数とした 重回帰分析の結果、担任サポートと配慮が生徒のサポートと配慮行動に正の影響を与えていた。第 2に、生徒の計画と組織を従属変数とした重回帰分析の結果、担任のサポートと配慮が生徒の計画と組織に正の影響を与えていた。

・有意傾向ではあるが、担任の計画と組織行動が生徒の計画と組織に正の影響を与えていた。

『垂直型リーダーシップが共有リーダーシップに及ぼす影響 井奥,釘原著』より抜粋
『垂直型リーダーシップが共有リーダーシップに及ぼす影響 井奥,釘原著』より抜粋

考察

以上の分析結果から、下記のことが考察できると論文では述べています。

・生徒の能動性を高めるよう配慮した行動によって、生徒が主体的に諸活動に取り組むともに、他者と協働することが示唆された。
・生徒の気持ちを理解する、または傾聴する姿勢を示すという担任の行動によって、生徒はクラスの生徒が話している際に傾聴する姿勢を示す、あるいは他の生徒を励ますことがわかった。
・場の空気を読む、または生徒の話をよく聞くという担任の行動によって、行事が円滑に進むように生徒自身が段取りを組むようになることが明らかとなった。
・団結力ある雰囲気を作るまたは、行事に取り組む計画を立てるという学級担任の行動によって、 生徒がそれらの行動を学習し、実践する可能性が示唆された。

要約すれば、垂直型リーダーシップは共有リーダーシップを促進する働きがあることが明らかとなったといえます。

垂直型リーダーシップのサポートと配慮行動は共有リーダーシップのサポートと配慮行動、計画と組織という2つの側面を促進することが示され、垂直型リーダーシップの計画と組織行動は共有リーダーシップの計画と組織行動を促進することが見出されました。

そして、垂直型リーダーシップと共有リーダーシップが適切に組み合わさることで、チームのパフォーマンスが向上することも示唆されました。具体的には、明確な指示とコントロールが必要な場面では垂直型リーダーシップが有効であり、柔軟性と創造性が求められる場面では共有リーダーシップが有効であるとされています。

垂直型リーダーシップと共有リーダーシップは、相反する概念として捉えられがちですが、状況に応じてこれらを使い分けることが重要であると、この論文を読んで気づきました。

リーダーシップスタイルは一つに固定するのではなく、柔軟に適応させることで、チーム全体の効果性を高めることができますね。

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