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私のお姉ちゃんは、漫画を描いている。

私には3つ上の姉がいる。負けず嫌いの私は、お姉ちゃんができることは自分にもできると信じて色々なことに挑戦しては、大怪我していた。小さい頃は喧嘩ばっかりで、どちらかというとお姉ちゃんが大嫌いだった。

でも、大人になるにつれて、姉妹っていいな、と思うようになった。自分が思っていることを気兼ねなく思っていることとか話せて、たまに一緒に遊んだりして。

そして何より、私はお姉ちゃんを尊敬している。

お姉ちゃんの仕事は、漫画家だ。
大学時代に美大に行って、それからずっと漫画一筋の人生。我が家はそんなに裕福ではなかったから、私もお姉ちゃんも奨学金を借りて大学を卒業している。今もお互い、絶賛奨学金を返済中。

美大は一般の大学の倍以上学費がかかる。お姉ちゃんの借りた奨学金は私の2倍を軽く超えている。それでも、絵が描くのが好きなお姉ちゃんは、奨学金を借りることを決めて、何十倍もの倍率の高い美大を諦めずに、受験して合格した。

当時はそれがどれだけの熱意や想いがないとできないことか、わからなかった。なんなら、勉強が全くできないお姉ちゃんを私は少し馬鹿にしていた。本当に家にこもって絵ばっかり描いているから、社会で生きていけるのかな、大丈夫なのかな、とか思っていた。

私はそこそこ勉強ができていたし、人間関係もうまくやっている方だと思っていて、社会人になってもまぁ大丈夫だろうと思っていた。でも、大学を卒業して仕事をするようになったら、仕事も人間関係もうまくいかず、新卒で就職した会社を5ヶ月で退職した。私の方が社会で全然うまく生きていけなかった。

自分の自信を挫かれ、ボロボロになって実家に帰ってきた時も、お姉ちゃんは大学の頃と変わらず、絵を描いていた。当時、お姉ちゃんは、絵だけで食べていけないから、ラーメン屋のバイトをしながら絵を描いていた。

「30歳手前になってアルバイトって、不安じゃないの?」と聞く私に対して、お姉ちゃんはキッパリと「私は絵を描いていることが幸せだから」としか言わなかった。

契約社員とか、正社員とか、人の目とか、そんなことを気にして生きている自分がなんだかとても恥ずかしかった。

仕事から離れた私は、暇だったこともあって、お姉ちゃんがつくった漫画を一緒に売りに、コミックマーケットにもついていった。コミックマーケットとは、アニメやマンガ、ゲームなどの同人作品が展示即売され、同人作品を創作するサークルやクリエイター、企業などが参加している大きな販売会のこと。

そこには、自分がこれまでにみたことの世界が広がっていて、圧倒された。コスプレしている人がたくさんいて、きっといわゆる「オタク」と言われる人たちがたくさんいた。この会場では、明らかに私の方が浮いていた。

この時に「オタク」って何をもって「オタク」なんだろう、と思うようになった。この世界においては、私の方が少数派で、そうやって、自分の持っている感覚が当たり前だと、こういう人だから「オタク」なんだ、みたいに勝手に人をカテゴライズしている自分が嫌だな、とも思った。

お姉ちゃんにはファンがいっぱいいた。お姉ちゃんの漫画を買いにきましたって言って、お姉ちゃんに差し入れを渡している人がいた。

純粋に、「すごいな」と思った。
自分が描いた絵を求めにやってきてくれる人がいて、サインを求める人がいて、お金を支払って、「頑張ってください」と声をかけてもらえる。

私にはそんな技術は持っていない。自分が描いた漫画を、喜んで買ってくれる人がいるってどれだけ嬉しいことなんだろう、と思った。

この時から、私は、世間体とか、人の目とか、一般的に、とかそういうことを考えずに、自分が大好きなこと、やっていて夢中になれることってなんだろう、と考えるようになった。

思い返せば、お姉ちゃんは、昔からいろんな人から馬鹿にされていた。
仕事もそんなにできないし、人とのコミュニケーションもそんなに得意ではなくて、勉強も全然できない。(とある世界から見て、の話だと私は思っている)

「ゆかのお姉ちゃん、変わってるよね」とよく言われた。

その時はそれが恥ずかしかったけど、今は全くそうは思わない。

お姉ちゃんは、お姉ちゃんの世界を誰よりも自分自身が大事にしていて、尊重していて、楽しんでいるだけなんだと思う。そしてそれを、本当に純粋に自分がそうしたいから、でやっているだけ。

もちろん、苦労することがたくさんあったのも知っている。夜行バスで東京の出版社まで行って、自分の漫画を売り込むという地道なことをしているのも知っている。なかなか漫画が売れなくて、知らないところでいっぱい泣いていたのも、知っている。

そんなお姉ちゃんを全てひっくるめて、私は尊敬している。

きっと、これからもお姉ちゃんは絵を描き続けるんだろう。

いつも実家に帰省するたびに、刺激をもらう。お姉ちゃんを見ると、私も自分の「大好き」を、堂々と掲げて生きていこう、と思う。

でも、直接言うのは恥ずかしいから、ここで許してね。お姉ちゃん。

私の結婚式の、ウェルカムボードを描いてくれました。
今でも宝物です、ありがとう。

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