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会社の役員メンバーが、卒業することになった。
私は、合同会社&ante(アンドアンテ)という小さな会社を、2022年12月2日に仲間2人と立ち上げた。
元々、会社をいつかはつくりたいと思っていて、なんとなく「今だろう」と思ったタイミングが2022年の12月だった。
私は何かを始める時、基本的にひとりよりも誰かと一緒に始めることが好きだ。自分ひとりよりも誰かと一緒にやった方が楽しいし、豊かだと感じる性格なのも大きいと思う。もちろん、誰かと一緒にやるということは、大変なことや面倒なこともあるけれど、それ以上に、その過程が楽しいんだと思う。
私が会社をつくろうと思った時、「このふたりとなら」と思って声をかけたのが文ちゃんとのんちゃんだった。
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文ちゃんとの出会いは、共通の友人の結婚式で。のんちゃんとの出会いは、とある会社で。ふたりとは、社会人になってから出会った人たちだ。
会社をつくるとなった時、楽しいことばかりではないだろう、と思った。個人事業主と違って、いろいろな制約もあるし、かかるお金も増えるし、お互いの報酬金額も共有し合いながら、事業をつくったり、営業をしたりする。
どれだけ仲良くてお互いに信頼していても、何かでぶつかることはあるかもしれない。
そう考えた時に、「そうだったとしても、このふたりとだったら、大丈夫だろう」という確信が私の中にあった。最悪、会社が潰れたとしても、何かでピンチになったとしても、最後までお互い手を離さずに踏ん張ろうとするだろう、と思ったのが、大きかった。
それはなんでそう思ったのか、と色んな人に聞かれるのだけど、「こうだから」という明確な理由みたいなものは多分なくて、私の直感。
私は、自分の直感を信じているんだと思う。
そんな私の誘いに、多分、色々と思うことや考えることもあったと思うけど、ふたりは「ぜひ一緒にやりたい」と返事をくれたのだった。これも、今考えると奇跡だよなあと思う。「一緒にやろう」と言って、全員が「OK!」と言ってくれる訳ではない。ましてや会社なんて、人生に大きな影響を与えるものである。
そんな大きな決断に、首を縦に振ってくれる仲間がいるということは、本当に奇跡だと思うし、今でもありがとう、と思っている。
共に会社をつくると決めて走ってきたこの2年間、本当にいろいろなことがあった。設立してすぐに大学院に入学した私は、経営と大学院の両立に挫けそうになったりもしたし、経営への考え方や営業への向き合い方も、ふたりとは違うところがあって、ぶつかったりもした。
時には感情的になったことも、しばらく距離を置きたいとなったこともあった。
特に最初の1年は、のんちゃんも文ちゃんも「ゆかっちの会社」という認識が強かったし、参画したのも「声をかけてもらって、力になりたいと思った」という理由も大きかったと思う。
私はそうではなくて「文ちゃんとのんちゃんの会社でもあるんだよ」ということを言い続けていた。でも、ふたりに「ゆかっちの会社である」と思わせてしまうコミュニケーションの取り方や、意思決定をしてしまっていたんだな、と振り返って気づいたときは、とっても反省した。
そこからは時間をかけて自分のコミュニケーションの取り方や対話の仕方を変えていって、2年目はふたりとも、主語を「&ante」として語ってくれることや意見を伝えてくれることが増えていった。明らかに1年前と比べて大きく変化していた。
ああ、自分のつくりたいと思っていた組織が少しずつ、つくれてきた気がする。
そんな喜びの矢先、のんちゃんの大学院博士課程の進学が決まったのだった。のんちゃんは今、カナダのモントリオールに住んでいる。「日本語が通じない国に行きたい」と日本を飛び出していったのんちゃんは、モントリオールでもアートや芸術の勉強がしたいと、大学院の博士課程進学を志して勉強していたのだった。
モントリオールに行きたい、と打ち明けられた時も、正直びっくりはした。会社を設立して半年後くらいのことだったし、まだまだ一緒にやれると思っていたから。でも、のんちゃんの一度きりの人生を、応援したい気持ちが強かったし、いってらっしゃい、と見送った。
モントリオールに移住した後も、関われる範囲でのんちゃんは&anteに関わってくれていたし、心強かった。のんちゃんなりに悩んで、もう完全に離れようとしたこともあったみたいだけど、やっぱり考えて、離れたくないと、10数時間の時差の中で頑張ってくれていた。
でも、海外の大学院の博士課程は、そんなに甘くない。そもそも公用語がフランス語だし、のんちゃんもついていくのできっと精一杯。平日は基本的に授業があって、これまで通り&anteに関わることが難しくなる。
「役員という役割は離れようと思う」
対話を何度も何度も重ねて、のんちゃんが出した決断。
私自身も、いろんな感情が渦巻いた。
一緒にやろうって決めたじゃん。そんなに簡単に手放すの?
一番最初に出てきた言葉は、のんちゃんを応援するよという言葉ではなかった。
そんな自分にも、ものすごく嫌悪感でいっぱいだった。
のんちゃんの人生だから、のんちゃんの好きにしたらいい。
頭ではわかっているけど、「なんで」「どうして」という渦巻いた感情に嘘はつけなかった。もっと一緒にやりたいという気持ちも、拭えなかった。
そこから、何度も何度も対話を重ねて、自分の気持ちも伝えてきて、相手の気持ちも受け取ってきた。
その中で私自身の心の奥底にあったのは、「関係性が変わってしまうこわさ」だった。
のんちゃんが役員でなくなったら、これまでの関係性は変わってしまうのではないだろうか、これまで共に過ごした時間は減っていき、距離ができてしまうのではないだろうか。「変わることないよ」なんて、綺麗事じゃないか。
私は、人と「別れる」とか「離れる」という行為が非常に苦手である。できれば長く一緒にいたいし、まだまだ共に過ごしたいと思っている人であれば尚更。
でも、人生というものは刻一刻と変化していき、人の意志も考え方も、価値観も大切にしたいことも、優先順位も変わっていく。それは、私自身だってそう。
その変化に対して、抗っているだけでは、それこそ共にいるということは難しくなるのだろう、と気づき始めている。
まだ正直、色んな感情はある。来年度、&anteとしてやりたいことも、チャレンジしたいこと、たくさんある。
そのプロセスの中に、のんちゃんがいてほしい。
でも、それは難しい。
でも、それは、のんちゃんの人生にとって、とっても重要な選択であること。
自分の大切なことと誰かの大切なことは、時にぶつかり合ってしまうことはあるけれど、だから共にいない、という理由にはきっとならない。
来年度、きっと新たな&anteの在り方を問われるのだろうと思う。そういう意味では、のんちゃんは相変わらずの難題を出してくる。
でも、私はその難題に、きっと諦めずに向き合うのだと思う。
のんちゃん、来年から博士課程、頑張ってくるのだよ。フランス語に負けるな!
私も、難題が無事に解けたら、聞いてもらおうじゃないか。負けないよ。
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のんちゃんの言葉はこちらから。