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災害ボランティア活動が若者の価値観の変容と幸福感に与える影響とは?

今回は、夫が書いた論文をまとめてみようと思います。夫は現在東北大学の博士課程2年目で、若者のアイデンティティの研究をしています。

この論文は、査読が通った記念すべき第一号の論文です。

実はちゃんと読んだことがなかったので、これを機に読んで、まとめます。

論文名:災害ボランティア活動が若者の価値観の変容と幸福感に与える影響 東日本大震災を事例に/齊藤 祐輔

この論文は、東日本大震災後の災害ボランティア体験がその後の若者の価値観や幸福感にどのような影響を与え、変容していくのかを明らかにした論文です。

私自身も、大学生時代は災害ソーシャルワークを学んでいたこともあり、に東北のボランティアにどっぷり浸かり、移住までした経験があります。間違いなく自分の価値観に変容があったと思います。


研究の目的

東日本大震災後に災害ボランティアに従事した若者の価値観の変容プロセスを質的に明らかにすること。さらに変容した価値観が持続的幸福感に寄与しているのかを考察する。

先行研究

そもそも災害ボランティアとはなんでしょうか。論文では以下と定義されています。

鈴木ほか(2003)では、災害ボランティアを「被災地外から駆けつける若年層をはじめとするボランティア未経験者を多く含み、災害直後の緊急救援だけではなく、その後の復旧・復興の長い過程も視野に入れながら、行政と対等な立場で協力し、組織的に救援にあたるボランティア」 と定義している。

また、この論文で出てくる「災害ユートピア」という言葉も興味深かったです。

災害は、日常とは違う社会が現れ人々に影響を与えることを示唆するものでもあります。

災害ユートピアについて「災害の中の喜びは、はっきりした目的の存在や生き延びることや、他人に対する奉仕への没頭や、 個人に向けられた個人的な愛ではなく市民としての愛からやってくる。」と説明している。

Solnit (2009)

ボランティア活動従事者に与える影響とその変容のプロセスを辿っていきます。

幸福研究

論文では、幸福感に注目しどういった影響があるのかその変容プロセスを明らかにしています。

Waterman(1993) はユーダイモニックな幸福とヘドニックな幸福が異なることを明らかにしており、Ryan & Deci(2001)は、「現在の幸福に関する研究は、幸福に焦点を当て、快楽達成と苦痛回避の観点から幸福を定義するヘドニック・アプローチと、意味と自己実現に焦点を当て、人がどの程度完全に機能しているかという観点から幸福を定義するユーダイモニック・アプローチの 2 つの一般的な観点から導かれてきた。」と説明している。

幸福にはヘドニック・アプローチとユーダイモニック・アプローチの2つがあるんですね。

ヘドニアは快楽主義とも訳されます。五感で快を感じることに関連した、美味しい、嬉しい、楽しいといったような幸せを含みます。ただし、この幸せは短期的で長続きしないと言われています。

ユーダイモニアは幸福主義とも訳され、何か人生にとって意義のあることを行なって生きがいを感じるような長期的な幸せです。利他心や社会貢献、ボランティアもここに含まれます。

内田ほか(2011)は、東日本大震災が若年層の生活行動や幸福度に対しどのような影響を与えたのかを報告しており、アンケートに回答した若者の半数以上が、何らかの形で人生観や価値観の変化を経験しており、特に社会的な関係性ならびに日々の日常を大切に考えたいと思う傾向の増大が最も多かったことを明らかにしています。

研究方法

分析手法

修正版グラウンデッド・セオリー・アプローチ(M-GTA)

調査対象者

2011 年から 2012 年までに現地に入りボランティア活動に従事したものとした。さらに、数日間1 度だけボランティア経験をした者ではなく、対象期間内に継続して地域に入り活動に従事したものを対象とする。対象者の年齢は、若者(震災当時 18 歳〜30 歳) を調査対象者とした。

研究結果

M-GTAを用いた分析の結果、42個の概念と 3 つのカテゴリー、4つのサブカテゴリーが生成された。

結果図は以下。

p36より抜粋


この論文で示された変容のプロセスとして、現場での答えのないものへの取り組みに対して、自律的に、他者と協働しながら創意工夫をして成し遂げていったことが概念やカテゴリーとして明らかにされました。

これは震災直後の災害ユートピアにおける即興や協働、自律的な行動が今回の東日本大震災後においてもあったことを活動従事者が実感しており、それらが価値観の変容を促していたと考えられます。

また、災害ボランティア活動だけでなく、そこで 出会った人や非日常的な環境など、災害直後の特殊な環境が変容を促進していることもわかりました。

災害ボランティアという活動を通して人がどのように価値観の変容を辿るのかということが明らかになったことで、災害ボランティアをやろう!という選択肢が、もっと広がるといいなあと思えました。

私もしばらく災害ボランティアにはいけていないので、そろそろ行きたいなと思います。

ボランティアだからこその繋がりや出会い、そして自分のなかでの変化気がある気がします。

夫よ、引き続き、研究頑張って!

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