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期待の声掛けが内発的動機づけ及び印象形成に与える影響とは?
「期待って伝えた方が良いの?」
「期待を伝えることで逆にプレッシャーになったりしない?」
「関係性がある人からの期待の声掛けしか効果はないのでは?」
など、仕事の中で期待の声掛けをどうするか悩んでいる人も多いのではないかと思います。
今回は、期待の声掛けが、内発的動機付けと印象形成にどう影響を与えるかという論文についてまとめていきたいと思います。
論文名:期待の声掛けが内発的動機づけ及び印象形成に与える影響
場面想定法を用いた探索的検討/井川純一さん
ピグマリオン効果
他者からの期待の影響についての古典的研究としてピグマリオン効果というものがあります。ピグマリオン効果とは、教員など相対的に高い社会的立場にある者からの期待を込めた対応が、 個人の能力や意欲の向上にポジティブな影響を与えるという現象です。
ピグマリオン効果と対になる現象として、ゴーレム効果というものもあります。(Babad, Inbar, and Rosenthal, 1982)。ヘブライ語のスラングでダンベル(重し)の意味を持つゴーレム効果は、 ピグマリオン効果とは裏返しに教師が期待をかけないことが生徒の意欲や成績を低下させてしまう現象です。
上司が無意識のうちに部下に対する自信のなさを伝えている様子について検討した研究(Manzoni & Barsoux, 1998)においては、上司によって「成
績が悪い」と認識されてしまった部下に起こるネガティブな自己実現、自己成就的な影響のプロセスが明らかとなっているそうです。
人の認識って、相手に伝わるということがわかりますよね。
先行研究
先行研究では、期待を抱く側が相手に向けて作る雰囲気や、より多くのことを教えようとする 傾向の影響が強いとされているそうです。例えば、教師は高期待の生徒に対し、より多くの応答機会、指導、賞賛を与え、支持的で思いやりを持って生徒と接します(Brophy, 1983)。
また、教師が生徒に対して高い期待を抱いている場合、その期待を口頭と非言語の両方で伝える傾向があることも明らかとなっています(Babad, Bernieri, & Rosenthal, 1989)。つまり、他者が期待をかけただけで相手が「勝手に」成長するわけでなく、期待を抱く側の意識的、無意識な働きかけが影響を及ぼしていると考えられます。
研究
研究では、参加者に対して、ある状況(例: 学業や仕事の場面)を想定したシナリオが提示されました。そのシナリオ内で、上司や教師などの他者からの期待に関する声掛けが行われ、その後の内発的動機づけや印象がどのように変化するかを評価しました。これにより、日常的な状況に近い形で、他者の声掛けが与える影響を探っています。
仮説
仮説 1 声掛け語句と表明者の好ましさが内発的動機づけに及ぼす影響
仮説 1- 1 内発的動機づけは、期待の声掛けで高まり、反発の声掛けで低くなる。
仮説 1- 2 表明者が好ましい人物の場合、内発的動機づけが高くなる。
仮説 1- 3 好ましくない人物からの期待の声掛けは内発的動機づけを減少させる。
仮説 2 声掛け語句と表明者の好ましさが表明者の印象形成に与える影響 仮説 2- 1 期待の声掛けはポジティブ,反発の声掛けはネガティブな印象を形成する。
仮説 2- 2 表明者が好ましい人物の場合,ポジティブな印象が形成される。
仮説 2- 3 好ましくない担当教員から期待の声掛けを受けた場合、好ましい教員のそれよりもポジティブな印象が形成される。
結果
仮説 1 声掛け語句と表明者の好ましさが内発的動機づけに及ぼす影響
仮説 1- 1 内発的動機づけは,期待の声掛けで高まり,反発の声掛けで低くなる(不支持)。
仮説 1- 2 表明者が好ましい人物の場合,内発的動機づけが高くなる(不支持)。
仮説 1- 3 好ましくない人物からの期待の声掛けは内発的動機づけを減少させる(不支持)。
仮説 2 声掛け語句が表明者の印象形成に与える影響
仮説 2- 1 期待の声掛けはポジティブ、反発の声掛けはネガティブな印象を形成する(支持)。
仮説 2- 2 表明者が好ましい人物の場合、ポジティブな印象が形成される(支持)。
仮説 2- 3 好ましくない担当教員から期待の声掛けを受けた場合、好ましい教員のそれよりもポジティブな印象が形成される(不支持)。
まとめ
本研究では、期待の声掛けが表明者の印象形成にポジティブな影響を及ぼすことが明らかとなりました。
しかし、期待の声掛けは、自分に対する関心だけでなく、ひいきや被コントロール感も同時に惹起させてしまう可能性があります。また、二者関係が良好になることが職場環境にポジティブな影響のみを起こすわけではありません。例えば、教師の差別的行 動に対する他の生徒の認識は、モラル低下や否定的反応と関連していることが示されています (Babad, 1995)。
期待の声掛けを行うことで、声掛けを得られなかった他の人物の内発的動機づけを下げてしまう可能性があるのであれば、その伝え方には十分な注意が必要となります。
また、仮説で想定した期待の声掛けによる内発的動機づけの上昇は認められませんでした。ピグマリオン効果が認められるためには、期待を持つ側の無意識的な行動の変化が重要であり、 単純な声掛けのみでは内発的動機づけは上昇しない可能性が高いと考えられます。
Jussim & Harber (2005)のレビュー論文では、ピグマリオン効果の効果量が現場レベルで実感されているよりも小さい一方で、教師にはその誤った信念(期待が他者を成長させる)が共有されてい ることが述べられています。
この誤った信念が示すように、ピグマリオンマネジメントという発想そのものが、ある意味通俗行動主義に基づいた幻想といえるのかもしれません。
他者からの期待の声掛けは内発的動機づけや印象形成に大きな影響を与えることが明らかになりましたが、ただ単に声をかけるだけではなく、無意識な行動変化が、相手に伝わっているということはとても重要な要素だと思いました。思ってもいない期待というものは、相手に伝わっているということだと思います。