夫を信じられなくて、許すこともできなくて。
初めての出産のあと、
私はなかなか夫を信じることができなかった。
夫は心やさしい人だし、
暴力を振るったことなど一度もない。
どちらかというと穏やかな人である。
それなのに、
夫が子どもをお風呂に入れている間、
「思い通りにならない子どもに酷いことをするのではないか。
子どもを殺してしまうのではないか」という不安がいつも付きまとっていた。
そんなこと、するはずがない。
ありえない。
頭ではわかっている。
それでも、
心の底からわいてくる恐怖は拭い去れず、
お願いだからなにも起こらないで、と祈っていた。
産後でホルモンバランスが乱れていたせい?
育児ノイローゼ気味だった?
そうかもしれない。
でも、根本的な原因は、
「私が私を信じられなかったから」だと思う。
寝かしつけても寝かしつけても眠ってくれない息子。
着替えさせたと思ったら、おしっこを漏らして、
片付けたと思ったら、ミルクを吐いて。
授乳すれば激痛が走り、泣き声に追い立てられる。
そんな毎日の中で、
私はずっと不安だった。
いつか、
自分が虐待してしまうのではないかと。
子どもを投げ飛ばしてしまうのではないかと。
自分の理性を、
愛情を、
優しさを、
信じられなかった。
自分すら信じられないのに、
夫を信じられるわけがない。
他人を信じられるわけがない。
だから私はずっと、
夫に子どもを任せるのが怖かったし、
頼りにして甘えることもできなかったのだと思う。
冷静に考えてみてば、
それは自分自身をさらに苦しめるだけだったけれど、
そんなことに思い至る余裕はなかった。
*
私をそこまで追い込んだのは、
「産後の妻を適切にサポートできなかった夫のせい」
なのかもしれない。
でもね、
夫だって初めての育児だった。
私が新生児の育児に戸惑い、おののきながら学んできたように、
夫もまた、妻をサポートし、ともに育児をしていく方法を、
勉強し始めたばかりだった。
3人の子どもに恵まれて、母6年目となった今ならば、
もっとこうすれば上手くいくのに、と思うことは山ほどあるけれど、
そんなこと長男を育てている時にはわからなかった。
夫だってきっと、
わからなかっただけなのだ。
妻がどれほどの極限状態で子どもを育て、
夫の支えを必要としているか。
自分になにができるのか。
なにを望まれているのか。
どう学んでいいのかさえ、
わからなかったのだと思う。
その証拠にいま父6年目に入った夫は、
私の最愛の理解者となり、
育児のパートナーとなり、
子煩悩で頼りになるパパになった。
*
その間、育児の経験を積み上げてきたことで、
私は自分を信じられるようになった。
育児は一筋縄ではいかないけれど、
それなりに上手くこなせているし、
子どもたちも元気に育っている。
100点のママにはなれないけれど、
そんなに悪くはない。
まずまずの成績だろう。
大丈夫。
私はちゃんと子育てできてる。
これからも問題なくやっていける。
そうやって、
毎日の経験を少しずつ自分への信頼に変えて歩いてきた。
自分は大丈夫だって、思えるようになった。
そうしてはじめて、夫のことも信じられるようになった。
きっと彼も、
子どもたちを大切に思ってくれる。
一緒に困難を乗り越えていける。
自分を許し、
相手を許し、
自分を信じ、
相手を信じる。
いつだって最初は「自分」だった。
相手をどうにかすることなんて私たちにはできないから。
自分を変えていく、それ以外の道はない。
あなたは何を恐れているの?
あなたは何を信じられずにいるの?
自分の心を見つめてみてほしい。
それこそが唯一のひかり。
あなたを暗闇から救い出す、
たった一粒のひかりなのだから。