「仕方がない」社会から「仕方がある」社会を創りたい NPO法人コミュニティ・オーガナイジング・ジャパン理事 鎌田華乃子さん
自分達の社会は自分達で創っていける、そこから未来を見い出したい。自分達が解決していけるという自信と能力を身に付けることが未来社会に必要だと感じ、市民社会、皆の声が届く社会を実現しようとしている鎌田さんにお話を伺いました。
鎌田華乃子(Kamata Kanoko)さんプロフィール
出身地:神奈川県横浜市
活動地域:アメリカ、日本
経歴&現在の活動
NPO法人コミュニティ・オーガナイジング・ジャパン理事
11年間の会社員生活の中で社会問題解決のためには市民社会が重要であることを痛感しハーバード大学ケネディスクールに留学。卒業後ニューヨークの地域組織にて市民参加の様々な形を現場で学んだ後、2013年9月に帰国。コミュニティ・オーガナイジング・ジャパンを2014年に立ち上げ、ワークショップやコーチングで、COの実践を広める活動を全国で行った。
留学を機に日本の女性が妻や母親という役割に縛られ、生きづらさを抱えていることに気づき「ちゃぶ台返し女子アクション」を2015年に立ち上げる。女性が共に声を上げることで、政策を変える力にまで結びつける活動をしている。明治時代から変わっていない刑法性犯罪条項を改正するキャンペーンを実施。2017年6月通常国会にて改正が実現した。
現在はピッツバーグ社会学部博士課程に在籍し、社会運動になぜ人が参加するか研究している。
Q:コミュニティ・オーガナイジング・ジャパン(COJ以下省略)の共同創設者でもある鎌田さんは、現在はどのような活動をされているのですか?
7月まではハーバード大学の研究員をしていました。8月からはピッツバーグ大学の社会学の博士課程で社会運動を研究する予定です。
コミュニティ・オーガナイジング・ジャパン略して(※COJ)は、日本では運動っていうとポジティブなイメージが無いと思うんですけど、普通の人達が行動を起こして社会に変化を起こしていくことを教えている団体です。
社会運動の研究をしながら、日本では、何をどうしたら効果的なんだろうという研究も、COJの中で進めていきたいと思っています。
日本では社会に対する運動や行動は広がりにくいんです。そこにどんな心の壁や頭の壁があって、どうやったら乗り越えていけるのかを研究しようと思っています。
Q:鎌田さんがこれから創りたいビジョン、夢、実現したい社会を教えてください。
今の日本は、理不尽なことが会社や学校であっても「仕方ないよね」って受け入れてしまうことが多いのではないかと思います。
それを「仕方がある」って思える人が、3~4割過半数になるような社会を創れたらと思っています。
どうしても誰かが作ったルールや社会に合わせないといけないと思ってしまうんですが、ちゃんと効果的にアクションを起こせば変えられるんだ、変えてもいいんだと思える人を、COJと一緒に増やしていきたいと思っています。
Q:日本の「仕方がない」を変えたいと思われたきっかけは何ですか?
私は、小さい頃に環境問題に関心を持ちました。
勉強やスポーツは出来ませんでしたが、木登りだけは得意だったんです。
毎日、近所の公園の雑木林で遊んでいました。お気に入りの木もあったんですよ。
小学校2年生の時にその公園に再開発が入って、雑木林が全部切られてしまったんです。
公園は綺麗になったんですが、お気に入りの木も切られていました。その時に「なんで毎日遊んでいる子供たちの意見を聞かないで勝手に変えちゃうんだろう?」と、当事者の意見を聞かないことが腑に落ちなかったんですね。
その時の私は、これは環境が破壊されることなので、環境問題だと思ったんです。それがきっかけです。
社会人になって2社目に環境コンサルの会社に入った時に気が付いたことがあったんです。
人は社会問題を日常的に感じています。住んでいる町に建物が立つことで環境問題に直面したり、職場でハラスメントを経験したりと。でもそれをコンサルティングや企業努力だけで解決するには限界があります。
声を上げてアクションする市民と、それをバックアップする市民社会、さらにそれをサポートするNPO・NGOの協力があって、皆の声が届く社会になるんだなと思いました。
日本はヨーロッパやアメリカと比べて、NPO・NGOに対して距離があるのを感じます。
私たちの生活には関わりないかも、、、と。
ヨーロッパやアメリカでは、日常の中に環境団体の会員がいたり、毎月寄付していたり、ミーティングに参加してボランティアをしたり、NPOの会員が何万人といるんです。
スタッフもみなさんプロフェッショナルで、大卒も勿論いるし、マスターとか博士持っている人もいっぱいいます。
政策提言がきちんと出来ているので、政府からも、日常の市民の声を吸い上げて政策に反映する機能を果たしてるとみなされています。
私が市民社会を強くすることや市民参加を学びたいと思った時に、日本には、思いを持った人たちがその思いを形にして政策を変えるまでのインフラがないんだなと思ったんです。
色々と調べてみた結果、市民社会とか市民参加に関することは日本では当時取り組みも少なく、研究もあまりされていませんでした。
友達に相談したら、それは海外の大学で研究が盛んじゃないかと言われて迷っていた時に、プライベートで結婚しようと思っていたのがダメになったりして。自分が結婚によって幸せになろうとしてたんだと、自分の依存に気づきました。
だったら、自分のやりたいことやって、自分を幸せに出来るような人間になりたいと思って、人生リ・スタートの意味も含めて、よし!留学するか!って。それが2011年だったんです。
そこから、2011年にハーバード・ケネディスクールという大学院(公共政策の大学院)に留学しました。
そこでは、公共政策は市民も参加して作っていくもの、という考えから市民社会や市民参加などが学べます。その中でコミュニティ・オーガナイジングというものに出会いました。
問題に気づいた人たちが仲間を創り、コミュニティに拡げて、皆でアクションして、政策や社会を変えていく手法です。
こういう道標があれば、理論的にまとめることもできるし、実践もできるので、頑張ろうとしている人にも届けられる。あきらめて「仕方がない」と思っている人に、「仕方がある」って思ってもらえるかなと思っています。
Q:海外の経験から、日本のここが変わったらいいなと思うところはありますか?
日本は良いところがたくさんあります。教育レベルが高いですね。識字率も。ごはんがおいしいとか。治安も悪くないし。
こうなったらいいかなと思うのは、自分の国を相対的に見られるようになったらいいのかなと思います。
島国という意味で孤立しているので、相対的に見ることが難しくなります。
そうすると日本が当たり前になっちゃいます。
例えば、大学受験失敗したら、就職失敗したら人生の終わりと思ってしまうとか。
私もいわゆる偏差値のいい大学に行きたかったんですけど、1日だけの試験で全部決まるのがすごく嫌で、ストレスに感じてうまく受験勉強ができなかったんです。
アメリカのハーバードの大学院に出願する時にも、私には絶対無理だと思ってました。
でもアメリカの大学は「偏差値」で見ないし、今までの成績や内容、何をやってきたかは大事だけど大学ランキングでは評価されないって聞いた時に、世界が開けた感じがしたんですよね。
もう1つ例を上げると、日本の中だと、女性の社会的な立場が分かりにくくなるんですが、色々な国の判断基準や価値基準を相対化して見れるようになると、あれ!日本ヤバくないと思えるのではと思います。
私は留学した時に未婚で、結婚する前に子供産む前に行くしかない!と思って行ったんですけど、海外の方はみなさん全然子供がいても留学しているんですね。
自分の人生があって、勿論家族と話し合うけれども、ちゃんと折り合いが出来れば、留学も行くしみたいな。。。
日本の当たり前が当たり前じゃないっていうのを、もうちょっと持てると、もっと自由に暮らせるのかなと思います。
横見て同じにしなきゃいけないけど、更にそこが日本でしか有効ではない基準みたいな。他から見ると、自分って本当にこんな小さいところしか見てなかったんだと気づけて結構面白いんです(笑)
現実は、色んな人からのプレッシャーがあるから難しいと思うんですけど、引いて見ればいろんな生き方があるっていうのが見えてきますね。
Q:周りを見て生きて来たと言われていましたが、そこから一歩アクションに行けたきっかけは何ですか?
小さい頃から周りを見ることはあったんですけど、小学校の時に絵の具のセットを買うんですが、男の子は緑のセット、女の子は赤のセットだったんです。
私は、色の好みが強くて、水色が好きでね。そもそも青が無くて失望していたんですけど(笑)
赤の色味がすごく良くなかったので、家に帰って親に聞いたら「いいよ」って言ってもらえて。
私、クラスの女の子の中で緑が1人だけだったんですよ。それが成功体験の1つかな。
自分が大事にすることを口に出していいんだって受け入れてくれるんだって思ったんです。
その時、自分が疑問に思ったことを口に出していいんだって思えたんです。違っていいんだって思えた瞬間でしたね。
Q:留学の決断も、自分らしく在りたいというものですか?
環境コンサルに転職したのが26歳。
外資系の比較的新しい会社なんですが、社長が変わってしまったんです。
今までは、会社に何時に来てもいいよとか在宅勤務OKとか、皆に任せていたんですが、新しい社長が禁止して9-5時にしたんです。
みんな困っていたし、私も今までの環境が良かったです。
会社の半分は女性でプロフェッショナルな仕事をしている人が多かったんですね。
育児しながらの人も結構いて、困っているけど意見を言う場も無くて。
社長に直接言うのはハードル高いから、私が代表して意見を吸い上げて、誰の意見かは分からないようにして課長に出したんです。そしたら、めちゃくちゃ怒られました。
会議室に呼ばれて
「何てことすんだ!余計なことすんな!」と。
「えー?余計な事?」と思ったけど、彼からすれば自分がやろうとしていた就業規則を、けちょんけちょんに言われたのでプライドが傷つけられたんでしょうね。
私は営業職で入ったので、本当はコンサルタントになりたかったんです。
でも、そうゆうチャンスを一切与えられなくなってしまいました。
駐車場に行って写真撮ってこいみたいなのしか頼まれなくなってしまって。
誰でもできる仕事、ホントにつまらない仕事しか回って来なくなったんです。
こりゃまずいと思い、自分で新規開拓営業して仕事を取る努力したり、他の人に頼んで仕事をもらったりもしたんですが、そこから、自分の意見を言わなくしてしまったんです。
会社がおかしいなと思ってもグッと意見を飲み込むようになりました。
真面目に仕事を取っても、売り上げ上げても何も言わない。自分が自分じゃなかったですね。
それが続くと、すごく体調が悪い日が続いて、高熱は出る、毎日気持ち悪いのが続いたりして大変でした。
そういう時に、結婚に依存して幸せになろう問題も発覚して、やはり自分らしく生きるのがいいと思い、そこで自分らしい生き方って何だろう?っていうところから、市民社会、皆の声が届く社会の方にシフトしました。
Q:鎌田さんの今の行動力とつながる、「生きる」とは何ですか?
黒澤明監督の「生きる」という映画を思い出しました。
生きるって私の中に2つあります。
ひとつはミッションです。やりとげたいこと。「仕方がないじゃなく、仕方がある」と思える社会作りをいろんな形で追求したいと思っています。
もうひとつは、家族とか親しい人を大事にすることですね。色々なところに行ったり自然に触れて豊かな時間を作ることを大切にしたいです。
Q:最後に読者の方にメッセージをお願いします。
日本の社会では、声を上げる人や問題提起をする人がいると、ちょっとモヤモヤする気持ちになる人が多いと思います。
例えば、セクハラとか、余計なこと言うなよとか、恥の文化と言われるものとか。あと子供の貧困や地域特有の問題とかも。言いたくない、恥をさらしたくないとか。何か日本人の中に完璧じゃなきゃいけない思い込みが埋め込まれているように思うんですよね。
他の国でもあると思いますが、日本は特にその「完璧だ、何の問題もない」とするプレッシャーが強いと思います。
さっきの話の続き、私の絵の具箱が緑だった時は、もっといじられるのかなと思ったんですが、意外と大丈夫でした。
「かんちゃん、緑なんだねー」で、さらっと終わったんです。
思っているよりもみんな気にしていないのかもしれません。ちょっと違っても大丈夫なんですよね。
違和感を感じても、温かい目で見守り合えるような日本にしていきたいです。
※1 COJ:http://communityorganizing.jp/
記者:自分らしく生きること。お互いに温かい目で見守るとか、協力しあえるのが当たり前の社会になったらいいですね。鎌田さん、貴重なお話ありがとうございました。
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鎌田華乃子さんの詳細についてはこちら↓
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【編集後記】
今回インタビューをさせていただいた阿久津&村田&山田です。
鎌田さんは気負いがなく肩の力が抜けていてとても気さくな方でした。インタビューしながら共感するところがたくさんあり4人で盛り上がりました。(笑)自分らしくありたい。そんな心の声を大事にして市民社会、皆の声が届く社会を実現することに情熱を傾けていらっしゃる姿が印象的でした。心からやりたいことを実践している女性は美しいですね。鎌田さんのこれからの活動を心より応援しています。
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この記事はリライズ・ニュースマガジン“美しい時代を創る人達”にも掲載されています。