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トラベラーズチェックをめぐってこれまでの20年とこれからの20年に思いを馳せる Jan27.2025

トラベラーズチェック(T/C)というものをご存じだろうか。20年くらい前までに海外へ行っていた人なら知っているかもしれないが、同世代でもその存在を知っている人は少ないと思う。

簡単にいえば、海外での支払に使える小切手のことだ。詳しい説明は、下記のサイトにゆずる。このサイトによるとなんと2014年には日本での新規発行は停止となっているそうだ。

それで、どうしてそんな古の決済手段の話をしているのかというと、私も持っていたのだ、20年前のT/Cを、米ドルで$220分の。

20年前といえば、時は2005年、中学2年の私は自治体の海外交流事業に応募し、アメリカはカリフォルニアへホームステイに行くことになったのだ。町に3校ある中学校から、それぞれ2人ずつ、高校からも2人の計8名に引率の先生が1名。3月の春休み前の時期に2週間、公式に学校を休んで(?)夢の海外へ。

2005年の米国といえば、あの同時多発テロから4年、空港の警備もそれは物々しい物で、当時流行りのスタッズ付きGジャン(今風に言えばデニムジャケットか?)を来た友人が、金属探知機に引っ掛かり、一人別室へ連行されたのを覚えている。日本人の中学生の女子に対しても、それほどの警戒心を払う程だから相当だ。

海外旅行は、確かその前に一度、韓国に両親と旅行したことがあった。しかし、その時は船旅だったし、飛行機に乗って、太平洋を横断して、しかもアメリカの一般家庭へホームステイ。初めて尽くしのことに胸を躍らせる私とは対照的に、両親の心配はいかほどであったか。

当時、まだまだ現金優勢の時代、子供にクレジットカードを持たせる、なんて発想はない。かといって、現金を持たせるのも防犯上心配だ。そこで、T/Cの出番である。

両親は私に$300のT/Cと$150の現金を持たせたようだ。(T/Cの綴りとそこに挟まっていた両替の控えから推測できた。)当時は$1が108円くらいだったようなので、5万円弱くらいのお小遣いといったところか。

T/Cは購入後、事前に自分で券面にサインをする。そして、実際に支払う際に、レジ前で左下にサインをし。右上と左上のサインの筆跡とパスポートのサインが一致していれば、受け取ってもらえる、という仕組みだ。(今考えると、右上にお手本があるのだから、漢字を使う国の人間ならば、筆跡を似せて書くなど、難しいことではない気はするのだが。)

2005年3月19日に福岡空港を飛び立った。福岡の人ならば、この日付にピンと来るかもしれない。そう、翌20日に福岡は最大震度6弱の揺れに襲われる。福岡西方沖地震だ。

地震のニュースはアメリカのニュースで知ったのだったか、引率の先生に連絡が入ったのだったか。ホームステイ先でPCを借り、ネットのニュース情報を集めた。今のようにスマホで世界中連絡を取り合える時代ではない。ホームステイ先のお宅の電話から、国際電話で自宅へ電話をかけ、両親につながった時は心から安堵したのを覚えている。

14歳で、2週間親から離れて、全身で異文化を浴びたあの体験は、今思い返しても本当に最高の経験だった。中学生の認知している世界なんて、中学校と家とその周辺くらいでしかなかったのに、一気に世界が広がったその感覚は後の人生にも大きく影響していると思う。

そんな貴重な経験の置き土産として、残ったT/Cなのである。確か10年前には、シンガポールの空港の両替所で現金に換金できた。しかし、換金できたという事実に安心し、その時すっかりクレジット派だった私は1枚$20分を換金しただけで残りはまた持ち帰った。

次にシンガポールを訪れた際、あれは6年くらい前だろうか、同じように空港の両替所でT/Cを差し出した。すると、差し出そうとするや否や、首を横に振られた。T/Cは両替できないというのだ。

帰国してから、ネットで色々と検索していたが、芳しい情報は出てこない。購入した旅行会社も数年前に払い戻しを終了している。オワッタ、$220が紙切れと化した。そんなことが現実に起こるなんて。どうにも諦めはつかず、ずっと引き出しの奥底にしまっておいた。

今年に入り、数年ぶりにふとT/Cのことを思い出し、改めて調べなおしてみた。すると、あるではないか、「トラベラーズチェックの買取について」という見出しが目に飛び込んできた。以前調べた際は、ヤフー知恵袋の乏しい情報しかなかったのに。

はやる心を抑えながら、サイトに目を通す。手持ちのT/Cと見比べてみると、買取できる条件には当てはまるようだ。店舗を検索すると、あった、福岡国際空港店!

それで今日、国際空港へと車を走らせた。こんな時、街中に空港があるというのは便利なもので、自宅からもせいぜい20分程度で着く。20年の月日が今!

窓口で「あの…T/Cなんですが。」と恐る恐るT/Cの綴りを差し出す。T/Cなんて突然差し出されてもきっと取り扱いが分からなくて上司に確認したりとかするんだろうな、めんどくさいの引いちゃったよ、みたいな顔されるんだろうな、などという勝手な想像を華麗に覆し
「T/Cですね!」と笑顔で受け取ってくれる窓口のお姉さん。女神現る。

いやいや、安堵するのはまだ早い。お姉さんはさっとマニュアルを取り出し、券面をチェックし始めた。隣のスタッフもこの珍しいケースの対応について、学ぼうとマニュアルを確認している様子が見える。

発行元の銀行に電話で問い合わせを始めた様子。電話先の人の指示で券面を光にかざしたり、表面の印刷の具合を確認したりしている。電話が終わり、お姉さんから買い取り金額が提示される。今日のレートから手数料を差し引いて約140円/$、全額で3万円程度になる。

「買取を進めてよろしいでしょうか?」とお姉さん。
よろしいに決まっている。一時は紙切れになったと思っていたものが換金できるんだもの、しかもそれは1$が108円の時代に購入されたもの、手数料を差し引いたって十分に円安の恩恵を受けている。

かくして、いよいよ11枚のT/Cにサインをする時が来た。「右上のサインと同じように左下にサインをお願いします」とお姉さん。なんとなく想定はしていたが、やはり来たか。

自分のサインとは言え、20年前の、当時中学生の自分のサイン。あの頃より字がうまくなったとも思わないが、氏名を全部漢字で書けるようになってからせいぜい5年くらいの当時と、今とでは筆跡に漂う年季が違う。トメハネにやたらと力が入り、角張った幼い字。そのたどたどしさの漂うサインに20年の歳月を感じながら、できるだけまねて11枚。書き終えるのには数分を要した。

苦戦する私を見かねたお姉さんが「自分のサインをまねて書くのは難しいですよね」と声をかけてくれた。待たせた申し訳なさを紛らわすため、「これを書いたの20年前で、当時小学生(盛ってしまった笑)くらいだったもので。」と苦笑いを返す。

20年という年月にさすがに驚いた様子のお姉さんに、「換金できて本当に助かりました。」と心からの御礼を伝えた。

20年の筆跡の違いを写真に収めるのを忘れたのが残念だが、こうして無事に古のT/Cは3枚の諭吉になって帰ってきた。(北里先生ではなく)

20年後には「諭吉」と聞いて、すぐに一万円札を連想できない時代になっているのか。そもそもお札という概念はまだあるのか、はたまたこちらもほとんど紙切れと成り果てているのだろうか。

T/Cの綴りと換金控え



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yuki
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