<旅行記>鬼怒川駅-龍王峡-星野リゾート(温泉)-東武ワールドスクエア1泊2日の旅
日本へ一時帰国したときは、かならず温泉に1泊する。そもそも、日本に帰ったその日には、すぐに自宅の風呂を沸かし、湯船に心ゆくまで浸かる。日本で生まれ、日本人であることを最高に幸運だったと思う瞬間だ。
だから、温泉の露天風呂に入ったら、もう気分は天国だ。そして、それが自然の美しさも伴っているところであれば、あらゆる病気も直ちに快癒するような気分になってしまう。実際、私のバネ指や脊椎管狭窄症は今回の温泉療養でかなり改善した。
ということで、今回は日程的にかなり厳しい中だったが、日本を出発する少し前に、奥様がいつもどおりに自分が行きたい温泉&付近の観光を、まるでツアーコンダクターの如く決めて、ただスポンサー(露骨に言えば、「お金を払う人」)である私は、団体旅行客のように決まったコースをついていった。
初日は、まず東武浅草駅を10時過ぎに出る特急で鬼怒川に向かった。しばらく行くと、都会のビル街を抜け、2年半ぶりに見る日本の何気ない田園風景が、車窓に広がる。ちょうど秋の稲刈りの季節となって、豊かに実る稲穂が、理由は良くわからないが、何か美しい。世界で、こんなに美しい田圃風景は見たことがない、ということに改めて気づく。
鬼怒川駅に到着した頃は昼時だったので、奥様が見つけておいた蕎麦屋に向かう。途中、ランチタイムのOLに奥様が店の名前を言って、場所を聞く。OLは「わかりません」という表情だけで、回答する。日本では言葉は不要らしい。それでも、蕎麦屋が多いわけではないので、目当ての店はすぐに見つかった。
私達が入った時はお客がおらず、店の人は暇そうだった。しかし、「招き猫」である私が入った後は、5人組と2人組の客が、続けて入ってきた。一気に商売繁盛だ。
手打ちの蕎麦と天ぷらが、ただただ美味い。素材の美味さを、余計なことをしないことで良く生かしている。特にかぼちゃと舞茸は最高だ。華道の花を生けることが、自然と頭の中に浮かんできた。日本人の感性だろうと思う。
ランチの後、龍王峡という渓谷に向かう。鬼怒川に向かう途中、かなり激しく雨が降ってきたが、「魔女」でもある奥様が「龍」に祈願したら、龍王峡駅に着いたときは、曇天の晴れ間がのぞく空になっていた。
秘境感たっぷりの、トンネルに隣接した駅だ。でも、無人駅でないことが意外だった。
そこから、渓谷に向かう途中の土産物屋で杖を借りたところ、愛想の良い店主がたくあん漬けをくれた。そして、「お医者さんですか?」と聞かれた。そういえば、ヨルダンのアカバのタクシー運転手からも同じようい聞かれたことがある。どうやらこの長く白い顎髭が医者を想像させるらしい。もっとも、精神科なら少しは対応できるかも知れないが。
この曲がりくねった川の姿から、昔の人は龍をイメージしたのだろうが、実際この青い水の中に龍がいても不思議でないような、静かで神秘的な渓谷だった。さらに昔の人は、龍という生き物というよりは、自然そのものの神を意識したのだろう。もちろん、渓谷内に龍神様を祀った神社がある。なんて気持ちの良い清涼な空気なんだろう。かなり歩いたが、腰の痛みを全く感じない。
駅に着いた後に土産物屋からたくあんをもらってしまったので、帰りに寄るつもりだった(商売上手いね!)のだが、そこは土産物だけで飲食はない。それで、隣の店に入って休憩する。
奥様は、山の天然水で作ったかき氷(私がひと口食べようとして、スプーンを入れたら氷がこぼれてしまい、酷く激怒された!食べ物の恨みは怖い・・・)を注文したが、骨が溶ける砂糖を控えるようにしている私は、天然水のサワーだ(その理由、本当か?)。ステンレスのカップが冷たさを強調して、火照った喉と胃に心地よい。・・・そういえば、どうでも良いけど、店のお姉さんは妊娠していたな。赤ちゃんには、龍にちなんだ名前をつけるのだろうか?
結局、たくあんの借りがある土産物屋からは、試食した煮豆を3つ買って、再び鬼怒川に向かった。
鬼怒川駅からはタクシーで宿に向かう。高級な温泉宿として人気の星野リゾートだ。この日は、GO TOキャンペーンで安くなっていることもあり、近県からの人が殺到して満室だそうだ。しかし、東京都民-というよりも海外在住だから、住民票もマイナンバーカードもないのだが-の私たちは対象外というのは、やはりちょっと寂しい。
駐車場のある車寄せからケーブルカーで500m程昇った小山の中に、宿がある。そして、フロントで受付をせず、個々の部屋でチェックインをする。大汗かきの私は、奥様に全部任せて、一人で大浴場に向かう。この時間帯は皆チェックインをしている最中だから、温泉は私だけの独占だった。小雨が降る露天風呂は、風情があっていい。身体中の筋肉と関節が緩んでいく。
この良く手入れされた中庭が良い。夕方なので、鈴虫の声が聞こえる。気温がどんどん下がってきているのを肌で感じる。山の涼やかさ。
部屋には小さな露天風呂がある。ここに一人でのんびりと浸かるのも、また愉し。
夕食は懐石料理、朝食は定番の納豆・温泉卵などだった。どれも美味しい料理だったが、板前の発想と技術に凝った料理よりも、質素・素朴な料理の方が好みになっているのは、年のせいかもしれない。また、ヨーロッパの良いワインが各種あるのは、宿泊客には素晴らしいことなのだろうが、私には名もない地酒の方がありがたいな、などと思ってしまう。
鈴虫の声を聞きながら熟睡し、セミの声を聞きながら目覚めた2日目の予定は、東武ワールドスクエアだ。奥様が、実際に観光した場所の模型を見てみたいのが、行くことにした理由だ(ちょっと、やな感じ?)。東武線の駅から駅へ移動するよりは、タクシーで行った方が近くて便利というので、12:00にチェックアウトして宿から直行する。
これを見て、すぐに帝国ホテルとわかるのは私以上の年寄りだろう。たしか、子供の頃に見た記憶がある。20世紀の建築家と言えば、コンクリートと植樹を組み合わせたル・コルビジェが有名だが、このフランク・ロイド・ライトも、味わいがある。時代に逆らってこのまま残していたら、世界遺産間違いなしだったろうな。
2001年9月11日に、オサマ・ビンラディンに破壊されたツインタワー。テロリストは、さすがにここまでは標的にしないようだ。左は、エンパイアステートビル。まさか、キングコングは昇っていない。でも、昇っていて欲しいなと願望する。
このピョートル大帝噴水宮殿(サンクトペテルブルク)で、チャイコフスキー「くるみ割り人形」の音楽が流れていたのは、心地よかった。この中でバレエを演じた様子が浮かんでくる。
このバチカンのサンピエトロの左後ろにパリのエッフェル塔、さらに遠くに東京タワーが見える。なんだ、この距離感は?ローマカソリックが世界征服しているよう?
シンガポールにタイガーバームガーデンというのがある(行ったことはない)。そこは正に、こんな魑魅魍魎が跋扈している風景だそうで、またこれに近いのはヒンドゥー寺院の神々の浮彫彫刻だろう。そして、これを見た子供は本当に喜ぶのか?しかし、夜は近づきたくないですね。
桂離宮。ここの素晴らしさは、外からの眺めではなく、中に入ることで分かる。こういう別荘が自分にあったら、最高だろうな。
ここの「主」の一人だそうです。夜中になると、各建物を巡回していそうな雰囲気が漂っている。
中学生の頃、こういうジオラマを作って見たかった。今作るとすれば、天国のジオラマかな。そこらじゅうに天使がいて、奥座敷には神が鎮座している。・・・でも、これって、そのまま教会になってしまうなと、後から気づいた。
先日、ニュースで豊島園閉園が流れていたが、そこにあるドイツ製の100年前のメリーゴーランドが、機械遺産に認定されていると紹介されていた。このただ回転するだけの遊具だが、なぜか人を惹き付ける。地球が回転しているから人も回転したいという欲望からだろうか。人生の回転する浮き沈みのようだからだろうか。回転することによって、異次元や異世界に瞬間だけ行けるからだろうか。
そんなことを考えつつ、夕方に東京へ帰った後は、息子と待ち合わせて、家族でよく行く寿司居酒屋で1泊2日の旅を終えた。
イワシやアジをつまみに、ビール、冷酒、ハイボールと飲んでいけば、現世の憂さもアルコールとともに昇華されていくようだ。楽しい日本滞在も、あと2日となった夜だった。