<ラグビー>2024年シーズン(9月第一週)
(どうでもよい「話の枕」です。関心ない方は飛ばしてお読みください。)
〇 ジョージ・オウウェルの『Animal Farm 動物農場』を読んだ。スターリン時代のソ連を、家畜の支配する農場に置き換えたこの作品は、早い時期のスターリン批判として評価されてきた。しかし、21世紀の今読むと、その「新しさ」と100年近く経っても政治が変わっていないことに驚いてしまう。スノーボール(トロツキーがモデル)が作った7か条のモットーを覚えられない愚鈍な大衆としての羊は、「四本足は友だち、二本足は敵」とだけ連呼して、独裁者ナポレオン(スターリンがモデル)に操られている。この姿は、今でも世界中どこでも見られる光景だ。
〇 ジャン・カルヴァン(カルビン)と言えば、キリスト教プロテスタントのカルヴァン派の創設者で、フランス人なのだがジュネーブをカルヴァン派の都市にしたのち、自分の新たな宗派の勢力を拡げたと歴史で教えられた。渡辺一夫の『フランス・ルネサンスの人々』のカルヴァンの項目を読むと、「Jean Calvin;本名 Jean Chauvin ( Cauvin , Caulvin ) ピカルディのノワヨンに生まれる。コヴァン(Cauvin)の姓をラテン化、更にフランス化してカルヴァンと称した」とある。つまり、もともとはカルヴァンではなく、コヴァンが正しい姓の発音だったようだ。
そして、このカルヴァンと聞くと、フランスの有名かつ日本でも絶大な人気を誇るピエール・カルダン(Pierre Cardin)を想像してしまう。しかし、このフランスのファッションデザイナーは、イタリアのヴェネト州生まれの元イタリア人(後にフランスに帰化)で、イタリア名は、ピエトロ・コスタンテ・カルディン(Pietro Costante Cardin)というそうだ。勝手な想像だが、カルヴァンもカルダンも、同じラテン語圏の人間なので、元々はコヴァンまたはこれに近い名前だった可能性はある。
1.ザ・ラグビーチャンピオンシップ(第三週結果)
南アフリカ31-27オールブラックス(HT11-12)
南アフリカは、エベン・エツベス、RG・スナイマン、ルード・デヤーガー、フランコ・モスタートのLO陣が怪我で欠場した。そのため、ピーター・スティフデュトイを4番LOに移動させ、ルーアン・ノーチェが5番で先発した。デュトイに代わってベンジョンソン・ディクソンが7番FLで、ジャスパー・ウィーゼがNO.8に入った。FBウィリー・ルルーが欠場し、アファレレ・ファッシが先発した。リザーブは、FW6人+BK2人として、LO選任に代えてFLを3人入れており、SHグラント・ウィリアムスとSOアンドレ・ポラードがBKをカバーする。(その後、エツベスが出場可能となったことから、マルコ・ファンスタッデンに代えて19番のリザーブに入ったため、LOのリザーブができた。)
オールブラックスは、指の怪我で欠場していたキャプテンのスコット・バレットが、4番LOで戻ってきた。一方、FLダルトン・パパリイの怪我で、サム・ケーンが7番FLに入った。ケーンとしては、RWC決勝でレッドカードになった汚名を雪ぐ絶好のチャンスとなった他、この試合で97キャップとなったので、100キャップまであと3試合となった。このままプレーし続ければ、今シーズン中に達成できそうだ。リザーブでは、19番LOに好調のサム・ダリーが選ばれているのが注目される。11番WTBは、フィジカルの強いケイリブ・クラークが入り、23番にマーク・テレアが入ったことで、近場のFW的な仕事を想定していた。
試合は、前半7分、スプリングボクスにシンビンが出たこともあり、オールブラックスがモールから先制トライを挙げる。しかし、シンビンが明けた17分にスプリングボクスからお返しのトライをされるが、これはボンギ・ムボナンビがインゴールでノッコンしており、明らかに誤審であった。その後、スプリングボクスはPGで8-7と逆転するが、オールブラックスは、11番ケイレブ・クラークのトライで8-12と再びリードした。しかし、スプリングボクスもPGを加えて、11-12に点差を詰めて前半を終えた。このPGは、後半に向けて大きなポイントとなった。
後半は、42分にオールブラックスが、12番CTBジョルディ・バレットの狙い済ましたインターセプトでトライを挙げてリードを拡げた。その後はPGを取り合うが、50分には17-22とオールブラックスがリードを維持する。さらに53分には、FBボーデン・バレットの好走からクラークが二つ目のトライを挙げて、17-27としたオールブラックスが勝利に近づいていた。ところが、68分にシンビンを出してしまい、69分と76分にスプリングボクスに連続トライを奪われて、RWC決勝のリベンジは道半ばとなった。
なお、オールブラックスは、トウィッケナムのRWCウォームアップマッチ、RWC決勝に続き、スプリングボクスに3連敗となった。アパルトヘイト時代のスプリングボクスにオールブラックスは、マオリ系選手を入国させてくれないなどの弊害もあって負け越していたが、アパルトヘイト廃止及びRWC開始以降は、スプリングボクスに連敗することはあまりなかった(例外は2009年で、28-19、31-19、32-29と3連敗している。当時は、2007年RWC優勝のスプリングボクスに有利なFW戦とキック主体のゲームだったので、オールブラックスのラグビーは不利だった。)
ムボナンビのノッコンがトライに認定されたことや、最後のトゥンガファシのシンビンなど、レフェリングに泣かされた部分もあったが、オールブラックスはトライ数4対3と相手に優り、60分過ぎまでは九分九厘手にしていた勝利を最後に逆転されて負ける結果となったことは、正直実力不足と言わざるを得ない。ホームチームが圧倒的に有利なエリスパークとはいえ、連勝を続けるスプリングボクスが強力なリザーブによって強さを見せた結果と対照的な結果となった。
スプリングボクスは、日本代表を外れたトニー・ブラウンを獲得したことが戦力強化に大きく影響している(ブラウンを手放した日本代表の損失は、計り知れないものがある)。一方のオールブラックスは、批判の多かったイアン・フォスターから人気の高いスコット・ロバートソンに監督を交代したが、アルゼンチンにホームで負け、またアウェイのスプリングボクスに逆転負けするなど、期待したような成果は出せていない。現時点では、落第すれすれの点数でこらえている状態だ。
さらに、参謀役でもあったレオン・マクドナルドが、ロバートソンとの不仲からコーチを退任するなど、チームマネージメントも十分機能していない。これでは、批判されたフォスター時代とあまり変わらないことになるので、ロバートソン人気が下降しても仕方ない。もし、来週の再戦で完敗するようであれば、ロバートソンの手腕には大いに疑問符が付けられることになるだろう。
アルゼンチン19-20オーストラリア(HT13-7)
オーストラリアは先発5人を入替え、キャプテンだったPRアラン・アラアラトアを18番のリザーブに下げた。この関係で、NO.8ハリー・ウィルソンが、今シーズンで4人目、また歴代で90人目となるキャプテンとしてゲームをリードした。今シーズンのワラビーズは、キャプテンがメリーゴーランドのように交代していることが、チームが上昇軌道に乗れない一因と指摘されているが、それが現在も継続している。ハンター・パイサミに代わって12番CTBに入ったハミッシュ・スチュワートが、今年15人目となる初キャップとしてプレーした。これはワラビーズ史上最多となっており、メンバーが(日本代表同様に)固定できないでいる。
アルゼンチンは、110キャップのアンガスティン・クレヴィが引き続き16番HOのリザーブに入り、フリアン・モントーヤが2番HOで先発した。好調のサンチャゴ・ショコバレスが12番CTBに入り、FW3列には、6番パブロ・マテーラ、7番マルコス・クレメール、NO.8ファンマルティン・ゴンザレスという強力なメンバーとなった。
試合は、両チームとも1トライずつを取り合った後、PGの差でアルゼンチンが前半をリードする。後半に入り、オーストラリアは、トライとPGで59分に16-17と逆転するが、アルゼンチンも70分のPGで19―17と再逆転する。しかし80分、オーストラリアはゴール前でPKを得て、勝負を決めるPGを22番SOベン・ドナルドソンが決めて、劇的なそして、今シーズンのTRC最初の勝利を収めた。オーストラリアのFW3列がよく働いたことに加え、セットプレーを安定させたことが勝因になっていた。
2. パシフィックネーションズカップ結果
サモア43-17トンガ(HT17-0)
トライ数6対2と、サモアが前後半を通じて圧勝した。サモアSHメラニ・マタヴァオが良いプレーをしている。また、2トライを記録した14番WTBツナ・ツイタマは、セヴンズのサモア代表で活躍した選手で、今大会の注目選手の一人に選ばれている。未確認ながら、氏がツイタマと同じなので、日本代表のマロ・ツイタマと親戚関係があると思われる。
アメリカ28―15カナダ(HT18-8)
似たようなフィジカルを前面に出すチーム同士の対戦だが、最近はカナダの地盤沈下に反比例してアメリカ有利になっている。その傾向どおりに、トライ数4対2でアメリカが順当に勝利した。プールマッチ最後となる7日の日本対アメリカは、グループ首位を決める戦いとなるので、良い試合を期待したい。
3.その他のニュースなど
(1)ポーシャ・ウッドマンウィクリフは、三重パールズへ移籍
NZのみならず、世界の女子ラグビー界で3度世界王者を勝ち取った伝説的スターとなっている、ポーシャ・ウッドマンウィックリフ(33歳)は、今年のパリオリンピック(セヴンズ)で代表レベルからの引退を表明していたが、今回日本の三重パールズ(15人制)へ移籍することを発表した。同時に、彼女の「妻」であるレニー・ウッドマンウィクリフ(元ブラックファーンズ選手)も、三重パールズのアシスタントコーチに就任する。11歳の娘カイアも帯同し、2025年2月まで滞在する予定でいる。
三重パールズのセヴンズでは、ブラックファーンズのキャプテンを務めたサラ・ヒリニがプレーしたことがある他、現在の監督は、同じくブラックファーンズ代表歴のあるヤンナ・ヴォーガンが務めている。なお、ポーシャの代表引退後は、アメリカのセヴンズクラブ、NRLW(女子ラグビーリーグ)や元々プレーしていたネットボールのクラブでプレーするなど、多くの選択肢が予想されていたが、過去に日本に訪れたときの良い思い出や前述のNZとの強いつながりから、今回の日本行きを決めている。
(2)WRの会長選挙に元オーストラリア代表が出馬
WR会長の元イングランド代表LOビル・ビューモントは、今年限りで二期目の任期が終わるため、11月に次の会長を決める選挙が行われる予定となっている。現時点では、現在副会長を務めている元スコットランド代表FLジョン・ジェフェリーの出馬が確定しているが、さらに元オーストラリア代表FLベン・ジョンソンが出馬することを発表した。ジョンソンは、現在オーストラリア協会でハイパフォーマンスユニットを担当している他、WRの代表者会議のメンバーを長年務めている。
もしロビンソンが会長に選出された場合は、初の南半球出身の会長となるため、これまで北半球チームの利益を優先して運営してきたWRが、今後は実力を反映した南半球チームの利益を考慮したものに変わる可能性がある。また、RWCは1987年に第一回大会をNZ及びオーストラリアで共同開催したが、これはRWC開催を北半球チームが強く反対してきた経緯があったための妥協案だった。その後RWCが多大な経常利益を上げることが証明されたため、現在は経済力に優る北半球チームを中心にして、RWC開催地を決めるように変わっている。
(3)ルイス・リーザミットは、ジャクソンビル・ジャガーズへ
元ウェールズ代表WTBとして活躍したルイス・リーザミットは、NFL(アメリカンフットボールリーグ)にコードスイッチした後、カンサツシティー・チーフスでランニングバックとしてプレーしていたが、この度チーフスのスコッド外となり、ジャガーズへ移籍することが決まった。
15人制ラグビーでは、トライゲッターとして活躍したリーザミットは、NFLでも一定の評価を得ていることから試合での活躍が大いに期待されたが、現状は良い結果が出ないため、今回の移籍となった。ジャガーズのあるジャクソンビルは、フロリダ州北部にある都市で、米軍基地があることから軍関係者が多く居住している。また、フロリダには、マイアミ・ドルフィンズという古豪が南部マイアミにあるため、ジャガーズは特に人気があるわけではないが、軍関係者と中心に一定数の地元ファンがいるチームである。
(4)トヨタヴェルブリッツのコーチ陣が、元オールブラックスに
トヨタヴェルブリッツの新年度の指導体制が発表され、GMのスティーヴ・ハンセンが、GM兼任のヘッドコーチになり、イアン・フォスターがアシスタントコーチとなった。これは、GM兼任を除けば、2012~2015年までのオールブラックスの指導陣をそのまま再現したものとなっている。
チーム事情などは異なるとはいえ、これで元オールブラックスの選手を複数入れれば、限りなくオールブラックスのOBチームのようになるから、いっそ南アフリカカラーのジャージか、らオールブラックスカラーにしたらよいのではないかと思う。しかし、既にリコーブラックラムズが黒基調なので、セカンドの白基調のジャージに変えるのはどうだろうか?
ところで、既にパナソニックワイルドナイツは、NZ人のロビー・ディーンズが長年指導している他、神戸スティーラーズはウェイン・スミスとの関係を深めている。女子ラグビーの三重パールズには、多くの元ブラックファーンズが加入しているなど、日本とNZとのラグビーでのつながりは益々強固になっている。これは、NZラグビーが世界最先端かつ世界最強であることが理由であり、また日本としては自然な流れと思う。しかし、そのままNZのやり方を真似れば良いとはならないので、まずは元オールブラックス首脳陣のお手並みを拝見したい。なお理想的と考えるのは、現監督エディー・ジョーンズの次には、ジョン・カーワンとジェイミー・ジョセフに続く三人目のNZ人に、日本代表を指導もらうことだ。それは、もしかするとハンセンになるかも知れないが、私はトニー・ブラウンまたはジョー・シュミット、そして本人がその気になってくれたらロビー・ディーンズが良いと思っている。
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