<ラグビー>7月9日の南北テストマッチの結果から
7月8日、安倍晋三元首相がテロリストの凶弾に倒れた。戦後77年、日本に根付いたと思われた民主主義は、一人の狂信的な犯罪者によってもろくも破壊された。ここは、政治的な主張や警察批判をする場ではないため、これ以上は言わない。ただし、日本の治安は確実に悪化していることは指摘したい。流れ弾の被害に遭わないためにも、花火や爆竹のような乾いた音がしたら、すぐにその場で伏せ、障害物に隠れることを意識しなければならない。・・・晋三さん、心よりご冥福をお祈りします。
1. オーストラリア17-25イングランド
注目の初戦は、ワラビーズが見事に連敗阻止となるゲームを見せた。フランス主体のバーバリアンズに負けた後に遠征してきた、イングランド代表監督のエディ・ジョーンズは、今シーズンの不調により恒例のメディア叩きにあっている。また、ジョーンズは恒例のレフェリー批判をして、第2戦以降の戦いを有利に進めようとしている。まさに、23人対23人のグランドでの戦いに加えて、グランド外での様々な戦略的な戦いが続いている。
ワラビーズは、PRにタニエラ・ツポウが戻った。これはイングランドには大きな脅威になるだろう。一方のイングランドは、引き続き若手を試用するメンバーにしている。もし連敗した場合、エディ・ジョーンズ監督への批判はかなり強くなると思われる。
ワラビーズは、アポリジニカラーのジャージを着用した一方、イングランドは因縁の2003年RWC決勝時に似た(未確認だが、まったく同じものかも知れない?)ジャージを着ている。
イングランドは開始早々から攻勢をしかけ、5分にNO.8ヴニポラがトライ、12番CTBファレルのコンバージョン成功で、7-0とリードする。その後もファレルが2PGを重ねて0-13とした21分、ワラビーズ23番ペレセがシンビンとなり、ファレルがさらに2PGを重ねて、0-19と大きくリードした。結果的にこのリードが最後まで影響した。
ワラビーズは、32分にPRツポウのトライとSOロレシオのコンバージョンで、7-19と前半を終えたが、後半早々にファレルにPGを入れられる。しかし、48分に12番CTBサム・ケレヴィがトライを返し、ロレシオのコンバージョンも決まって、14-22と追い上げた。さらに、54分には、イングランドSOスミスがシンビンとなり、ロレシオがPGを決めて、17-22としたときまでは、ワラビーズの逆転勝利が見えていた。
ところが、その後イングランドが踏ん張り、67分にファレルがPGを入れて、17-25とトライでは逆転できない点差に拡げて、そのままなんとか逃げ切った。まさに、シックスネーションズでやっているような、PGで得点し、堅いゲーム展開で勝ち抜くという、典型的な北半球チームのゲームで勝利したと言える。
これでエディ・ジョーンズ監督への批判は、一時的に静まることとなったが、来週の最終戦の結果いかんでは、再燃する余地を大きく残している。
2. オールブラックス12-23アイルラン
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新型コロナウィルス感染で隔離されていたコーチ陣が戻った他、ジャック・グッドヒュー、デイヴィット・ハヴィリ、ウィル・ジョーダンの3人の選手が戻った。そして、おそらくジョーダンは先発に入るだろうと予想されている。一方、クイン・ツパエアとリエコ・イオアネのCTB陣は非常に良いプレーをしていたので、そのまま先発で継続し、リザーブにロジャー・ツイヴァサシェックが入ることが期待されている。
一方、LOサムエル・ホワイトロックが脳震盪で第3戦までの出場が不可能となった他、ツポウ・ヴァアイも新型コロナウィルス感染で出場できなくなった。そのため、本来はオークランド代表で試合をした後にオールブラックス入りの資格発生となる、日本から戻ってきたばかりのパトリック・ツイプロツを、特例でオールブラックスのスコッドに入れた。また、ハイランダーズ及びマオリオールブラックスのジョシュ・ディクソン(LO)と、オールブラックスのキャップのあるシャノン・フリッゼル(FL)を、急遽スコッド入りさせた。
この結果、6番FLで活躍したスコット・バレットは、本来のLOでの起用となる。また、キャプテンの7番FLサム・ケーンのプレーぶりについては、イングランドの評論家などが、例えばスプリングボクスのシヤ・コリシには勝てないだろうと否定的な見方をしており、アーディ・サヴェアを7番にすべきだと進言している。この場合、NO.8は、ホスキンス・ソツツまたはピタガス・ソワクラが候補となる。6番については、ダルトン・パパリイ、(怪我が回復すれば)アキラ・イオアネが候補となる。また、マオリオールブラックスからカレン・グレイスを招集する可能性もあるだろう。
結果的にパパリイが6番に入り、スコットはLOに上がった。また、イングランドの評論家から「メンバー入りの資格がない」と批判されたサム・ケーンは、元NO.8キアラン・リードが援護するようなリーダーシップを買われて、引き続き先発に入っている。また、SHのリザーブにファラウ・ファカタヴァが入った。WTBのジョーダンとともに活躍が期待される。
一方、アイルランドは脳震盪でプレーできないはずのジョニー・セクストンが、なぜか先発SOに復帰している。選手の健康を考えれば休ませるべきだと思うが、一応復帰のためのプロトコール(条件)をクリアーしているので、表立って反対はできないが、疑問は残る。
開始3分、巻き返しを図るアイルランドは、PRポーターがFWの圧力でトライを取り、SOセクストンが無難にコンバージョンを決めて、7-0と幸先良いスタートを切った。その後、14分にセクストンがPGを加点して、10-0とした後、ゲームは膠着し激しいフィジカルバトルとなったが、17分にオールブラックス11番WTBファインガアヌク、25分PRトゥンガファシが連続してシンビンになり、31分には交代出場のPRタアアヴォがレッドカードになってしまい、オールブラックスは13人でプレーする時間が多くなってしまった。さらに、PRがいなくなるため、代わりにアタックの要NO.8サヴェアをひっこめたことは、オールブラックスのアタックに相当なダメージを与えることになった。
それでも、41分、SOボーデン・バレットが執念のトライを挙げ、弟のFBジョルディがコンバージョンを決めて、7-10で前半を終える。この勢いで後半はオールブラックスが逆転するものと期待したが、48分、アイルランドPRポーターに二つ目のトライを取られ、セクストンのコンバージョンも決まって、17-7と再び10点差にされてしまった。
オールブラックスは人数が不足した疲労がたまっており、56分、68分とセクストンにPGを加点され、7-23とほぼ勝負を決められてしまった。残り12分、オールブラックスも逆転勝利目指してアタックを繰り返したが、アイルランドのディフェンスは固く、78分に23番WTBジョーダンがトライを返す(ジョルディのコンバージョンは失敗)だけの、12-23とするのが精一杯だった。
オールブラックスの敗因はいろいろあるが、一番は、スクラムが安定せず、反則を多く取られたように、FW戦で負けたことが大きい。さらに、アイルランドには良いプレーが連続するのに対して、オールブラックスはいつもは見られないミスを連発するなど、落ち着いたプレーができず、アイルランドには117年目にして、ホームで初めて負ける栄誉を与えてしまった。
前週は、新型コロナウィルスの関係でフォスター監督は遠隔操作となり、急遽前アイルランド監督だったジョー・シュミットが、オールブラックスのコーチに参加したことが、結果的に良い影響を与えた。つまり、フォスター不在かつシュミット参加によって、オールブラックスはアイルランドを一蹴したのだ。そう考えると、敗因はフォスターのコーチングに求めざるを得ないので、フォスターの更迭とシュミットの再参加、そしてスコット・ロバートソンのオールブラックス監督抜擢を早急にすべきではないかと思う。
また選手についても、ケーンのオープンサイドFLは限界にきているので、リザーブに回し、6番はサヴェア、7番はパパリイ、NO.8はホスキンス・ソツツを起用する。12番CTBには、好調のロジャー・ツイヴァサシェックを先発させるなどの、ドラスティックな対応が必要ではないか。
3. 南アフリカ12-13ウェールズ
第1戦のウェールズは、まさに勝ちを逃してしまったようなゲームとなったことから、対スプリングボクス戦にかなり自信を深めているように思える。特に勝ち越しのコンバージョンを外した上に、最後のみずからの故意のノッコンによるPGで勝利を与えてしまった、SO兼キャプテンのダン・ビガーとしては、相当気合が入っていると思われる。ウェールズの勝機はかなりある。
一方のスプリングボクスとしては、不調のSOエルトン・ヤンチースの扱いが注目される。おそらく先発SOにダミアン・ウィルムゼを入れ、FBでウィリー・ルルーを先発させ、ヤンチースは22番のリザーブになると思うが、終盤に重要なゴールキッカーを任された場合は、かなり不安が残る。
そのスプリングボクスは、SOにアンドレ・ポラードを先発させるなど、そんなにひどいメンバーではないのにも関わらず、先発14人を入れ替えたことで、「Bチームでウェールズをなめている」と、元ウェールズ及びライオンズの伝説的SHガレス・エドワーズが批判している。しかし、ザラグビーチャンピオンシップでプレーしているメンバーが大半なので、Bチームとは言えないし、選手層の薄いウェールズとは違って厚い選手層だという証明ではないか。
ゲームはウェールズSOビガーがPGを先行した後、スプリングボクスSOポラードがPGを返して、3-3で前半を終えた。後半に入ると、ポラードが43分、51分と連続してPGを入れて、9-3とリードした後の57分、ウェールズ19番LOウィンジョーンズがシンビンとなり、スプリングボクスは数的優位に立った。また、トライを取りそこなったものの、ポラードがPGを加点して12-3とリードした。
ところが、ウェールズも底力を見せ、交代SOでNZ人の22番アンスコムが、66分に長い距離のPGを決めて、12-6と6点差に迫った後の78分、連続攻撃から大外にいる23番WTBアダムスにロングパスが通って、12-11とするトライを左隅に決めた。ゴールキッカーのアンスコムには、勝利を決める責任重大かつ難しい左隅からのコンバージョンが任されたが、見事にこれを決め、12-13と逆転勝利に導いた。また、ウェールズが南アフリカのゲームで、初めてスプリングボクスに勝利する歴史的なものとなった。
結果からすれば、スプリングボクスはBチームだったかも知れないが、最後まで勝機はあったので、次の最終戦も接戦になることが期待される。
4. 日本15-20フランス
フランスが手加減したこともあったが、第1戦の前半は日本が良いアタックとディフェンスをしたことはたしかだ。それが後半に入って崩壊してしまったのは、フランスがうまく対応してきた上に、日本代表選手の経験値の低さが影響したように思う。
幸い、第2戦に備えて、新型コロナウィルスに感染していたSH斎藤直人が戻ってきた上に、干されていたSO田村優もBチームから引き上げられた。これでようやくフランスに対する臨戦態勢が備わったと思う。また、WTBもゲラード・ファンデンヒーファーよりは根塚洸雅や尾崎晟也の方が信頼感はあるので、楽しみだ。
しかし、SO李もWTBファンデンヒーファーも継続して先発する。おそらくは、スプリングボクスのように強力なリザーブを置いて、後半に勝負をかけるつもりなのだろうが、そもそも前半で圧倒されたら、時間切れになってしまう。まあ、「負けて元々、若手に経験を積ませる」ということなのだろう。
日本協会の新会長であるサントリーの土田氏は、サントリーのGM時代からそうだったが、とても気が利く常識人だと尊敬している。今回も、故安倍晋三元首相の追悼のための黙祷を試合前に行い、日本代表選手には黒いテープの喪章をつけさせた。偉大な首相の暗殺と言う歴史的な大悲劇への正当な対応というだけでなく、2019年RWC日本開催に尽力した日本ラグビー界の恩人に捧げるという、強いモチベーションが選手に植え付けられることになった。
そして、選手はよくやった。天国の安倍晋三さんもきっと喜んでいるだろう。キックオフ早々にはあっさりとトライを取られたものの、その後キックカウンターからFB山中がトライを返し、さらに39分のFB山中の二つ目のトライは、6番FLリーチを筆頭に、複数の選手が素晴らしいパスをつなぎ、これぞジャパンウェイと自慢できる素晴らしいトライを挙げた。このトライは、ティア1の国でも簡単には防げないだろう。
これで前半を15-7とリードしたが、前週の後半の大失速とフランスの豹変した強いアタックの記憶があるので、後半を見てみないとなんとも言えないという雰囲気だった。
しかし、7番FLガンターの世界屈指ともいえる鬼気迫るディフェンス(ジャッカルとタックル)が連発して、1PGを返されたものの、70分までは15-13とリードしたのは素晴らしかった。60分まで頑張ったSH斎藤、SO李の若いHBは、前週の反省を踏まえて良くやった。
60分以降は、リザーブのベテランが入ってきた日本代表の、対フランス戦初勝利の予感が盛り上がってきたが、16番HO堀江のラインアウトミスが重なった上、自陣ゴール前20mのスクラムから、21番SH茂野が相手の動きにつられて空いたスペースを突かれて、15-20と逆転されてしまった。しかし、残り10分で5点差は十分逆転勝利できる範囲だ。そして2015年RWCの南アフリカ戦のようなイメージが脳裏に浮かんできた。
そして、その光景が74分に実現する。ゴール前ラインアウトから20番タタフがインゴールに飛び込んだのだ。同点トライ!、22番SO田村のコンバージョンが決まれば逆転!、と思ったのもつかの間、TMOでタタフのノッコンが確認されてノートライとなってしまう。その後も、フランスがミスを連発してチャンスをくれているのに、8番コーネルセンのノッコンなどで付け込めず、時間切れとなってしまった。
でも、良い試合だった。国立のお客さんは大満足だったのではないか。そして、何よりもラグビーファンだった晋三さんは、天国で独特の微笑をしながら、この試合を暖かく見守ってくれていたと思う。晋三さん、応援ありがとうございました。日本代表は、次にはきっとフランスに勝ちますよ!
5. アルゼンチン6-29スコットランド
先週書き忘れた、不振による更迭された前ワラビーズ監督のマイケル・チェイカがアルゼンチン監督に就任した初戦が、先週のゲームだった。そして、スコットランドになかなか勝てなかったのが、良い勝利を挙げるという実績を残した。現在のフランス代表がそうであるように、チームを作るのは選手だが、いくら良い選手がいても指導者が無能ではチームは勝てない。アルゼンチンはフランス同様にコーチの重要さを証明したと言える。
そして、第1戦を見る限り、接戦とはいえアルゼンチンがスコットランドを実力で上回っていることが良く見えてくる。なによりもFWで勝っているので、スコットランドが第2戦及び第3戦で巻き返すのは、かなり難しいのではないかと思われる。
アルゼンチンは、前半37分まではFBボッフェリが2PGを入れ、一方のスコットランドはSOキングホーンの1PGに抑えて、6-3とリードしたが、37分、スコットランド7番FLワトソンにトライを取られ、6-8と逆転されて前半を終えた。
後半にアルゼンチンの巻き返しが期待されたが、FW戦で劣勢となった他、ディフェンスが機能せず、42分に、スコットランド13番CTBベンネットにトライを取られ、52分にボッフェリがシンビンになった後、53分にNO.8ファガーソン、63分に12番CTBジョンソンと3連続で良いトライを取られ、そのまま6-29で負けた。
第1戦とは見違えるようなプレーを見せたスコットランドに対して、アルゼンチンは精彩のないプレーが目立ったゲームとなった。
6. 南北対決第二週の感想
前週とは正反対の結果となった。フランスが日本に勝利したのは予想通りとしても、オールブラックスが初めてホームでアルゼンチンに負け、Bチームと揶揄されたスプリングボクスが、Bチームであることを証明するように、ウェールズにホームで初めて負けた。ワラビーズは、前週の良いプレーを再現することができず、イングランドとのPG合戦に負け、シリーズ勝ち越しを決めることができなかった。アルゼンチンは(もともと安定して実力を発揮できるチームではないが)精彩のないゲームで、スコットランドに見事な反撃をされた。
昨年秋の新型コロナウィルスによる南半球の不利は解消され、本来の実力が発揮された結果、南半球勢が全勝したと前週に書いたが、今週はアルゼンチンを除いて接戦となり、特にオールブラックスは2枚のシンビンと1枚のレッドカードという反則負けだったことから、純粋にラグビーの実力が正確に反映されたものとは言えないものの、南半球チームが全敗したことで、北半球勢が見事に巻き返した結果となった。
このため、シリーズ3連戦の勝敗がどれも1勝1敗となったため、来週の第3戦は、どこもまさに決戦となるが、例年南半球チームが3連勝していた(アルゼンチンやワラビーズのイングランド戦などの例外もあるが)ことを考えると、北半球と南半球の実力はほぼイーブンになり、シンビンなどのプレー以外の要素によって勝敗が決まる傾向になったと思われる。
しかし、特にオールブラックスについては、新型コロナウィルスの影響や監督の無能さがかねてから指摘されているため、今回のアイルランド戦を契機として、なかなか決断できないでいる監督交代が出来れば、まだまだ実質世界王者として君臨できる優れた人材を多数そろえているので、RWC優勝は十分可能だと思う。
一方、日本相手にBチームで苦戦したフランスは、Aチームであれば日本相手に楽勝する可能性は十分あるため、この日本戦だけで現状を判断することはできない。秋の南半球勢との対戦を待ってからになるだろう。