【2024年版】アクティビティ体験ガイドが読むべき17冊の本
おはようございます!
ときどき、「おすすめの本はありますか?」と聞かれることがあるので、自分の備忘録も兼ねて、「アウトドアガイド/インストラクター」や「体験アクティビティガイド」が読むと事業の参考になる本をまとめてみました。
今回は17冊の本を紹介しましたが、まだまだ参考になる本はあるので、折に触れて追加していきたいと思います。
戦略部分と戦術部分の2つがあり、戦略部分が重要。
ガイドさんがマーケティングに関して読むべき本の大まかな区分は、大きく2つあります。戦略部分と戦術部分です。戦略部分は、ツアーの本質的な価値や顧客のニーズ、ツアーの組み立て方に相当する部分、戦術は、実際の売り方、やり方、具体的な方法に相当する部分です。
戦略と戦術で6つの見出しに振り分けて見ました。順を追って御覧ください。
戦略部分/ツアーの本質や楽しさ(楽しさの心理)
戦略部分/ツアーの作り方
戦略部分/ツアーに参加したいと思う気持ち(きっかけの心理)
戦略部分/番外編/知識、歴史
戦略部分/マーケティング
戦術部分/マーケティング
1、戦略部分/ツアーの本質や楽しさ(心理)
ここ数年「顧客が体験ツアーで満足する根本的な要因はなにか。」「良いツアーとは一体何なのか。」という問いを考え続けて来ました。ツアー終了後に「楽しかった」とか「時間があっという間に過ぎました」という感想が出てくるためには、何をすればよいのか。結果見えてきたのが、フロー理論です。
いろんな人にこの話題「ツアーの楽しさとはなにか?」について聞くと、「景色が良いことが魅力だ」、「ストーリーテリングが何よりも重要だ」、「知的好奇心の刺激ではないか」などなど、さまざまな答えが返ってきます。これはこれで正しいと思うのですが、個人的には何かもやもやするのです。もうちょっと深く、その先を知りたい。
つまり、その答えの先にある答え。なぜ「景色が良い」と魅力に人間は思うのか、とか、なぜ「ストーリーを聞くと」満足度が高まるのか。なぜなのか。この根本的な部分に明確に答えを出したい。というのが、個人のテーマです。
ただ、はじめにあえて言及しておくと、「フロー理論」がアクティビティの楽しさのすべてである、とは思っていません。アクティビティの満足度を構成する要素には、他にも「知的好奇心の充足」がありますし、ベースとして、そもそも「自然界から受けるポジティブなエネルギー」も存在すると思います。(自然界から受けるエネルギーの捉え方は難しく、フローに入ったことによって、ポジティブな神経反応が出たということもあろうかとおもいます。)
フロー理論や知的好奇心の充足、この両者とも共通するキーワードは「意識の集中」または「意識の奪取」といった概念で、いずれも意識レベルの事象をどうコントロールするか、という課題が見えてきます。
※チクセントミハイがいう「フロー理論」の初歩的な部分は、主に、体を動かすフィジカル要素の強い体験の中の具体的な瞬間瞬間に起こる心理的な動きに焦点を当てています。
フロー体験入門/ミハイ・チクセントミハイ
まずはこちらから。
フィジカル(体を動かして何かのアクティビティを行うこと、陶芸や観光農園も含む)要素があるツアーにおいて、顧客が「楽しい」と思う気持ちの大部分は、このフロー理論に基づいているとほぼ確信しています。フロー理論を最初に学ぶ入門書として、この本を読むことをおすすめします。
スポーツを楽しむ/スーザン・A・ジャクソン他
こちらもフロー理論の本。フィジカルの要素がある以上、顧客の主たる参加目的が、コンペティショナルなものか、レクリエーショナルなものか、の違いはあれど、アクティビティとスポーツの楽しさの根源はフローにあるので、スポーツの観点からフローについて学ぶのは一考あるかと思います。
NATURE FIX/フローレンス・ウィリアムズ
フローが発生するか、しないかに関わらず、自然環境化にいながら、何かの活動をする際、土台(ベース)として、自然が人間に与えるポジティブな影響にどういったものがあるかという観点を学べます。
Awe Effect/カトリーン・サンドバリ他
こちらもNaturefixと近い話ですが、「人間の理解を超える何かの事象」にぶつかったときに人間が受ける感情についての話です。フローで説明できなくはないような気もしますが、もし興味があればぜひ。
2、戦略部分/ツアーの作り方
インタープリテーション/サム・H・ハム
インタープリテーションのTORE理論は、純粋な知的好奇心喚起のツアーのみならず、街案内ツアーやフィジカル要素の強いアウトドアツアーまで広く包括して使えるもので重要です。ツアー構成を語る理論として、TORE以外の本は無いように思います。
ただ、一般的にこのTOREをツアーに適用すると、ガイドが思うTに対して、OREを構築していくという流れになることが多く、顧客の興味関心、市場のニーズといった基本的な観点が飛ばされます(別にガイドさんの年収が50万円とか100万円程度で良い、というなら、プロダクトアウトのTOREでも良いのですが)。このTOREをプロダクトアウトではなく、マーケットインの観点から使い、TOREではなく、RTO=Eの順番で使うのはどうだろうか普段考えています。OとEが=なのは、「楽しい」という感情はフローによるため、フロー状態に入れられる内容にする、つまりO自体が、Eと密接に結びついている、という意味で使っています。(多くの地域では、地域にある資源をもとにツアーを作ることになるため、ほぼプロダクトアウトにならざるを得ません。そのためプロダクトアウトで作られたとしても、その内容をなるべく市場のニーズをキャッチアップできる形に変えていくことが重要だと思っています。
ついやってしまう体験の作り方/玉樹真一郎
任天堂でゲームを設計していた方による本です。この本はフローについて語っているわけではないのですが、近年、ゲーム(スマホも含む)業界で、フロー理論が用いられています。人がテレビゲームにハマるのは、フローに入るためだ、と考えれば、フローを用いたゲームデザインの書籍は、体験ツアーを作る際の参考になると思います。ゲーム業界の先行した設計理論をフィジカルを用いた体験ツアーにも応用できるのではないか、というのが最近のテーマです。
※このフロー理論を利用した、ゲームデザインについては、これ自体がそもそも壮大なテーマなので、細かく入り込んではいません。どこかでやります。
3、戦略部分/ツアーに参加したいと思う気持ち(きっかけ)
欲望の見つけ方: お金・恋愛・キャリア/ルーク・バンジス
フロー理論が主に、「ツアー体験中」の気持ちや満足度に焦点を当てているのに対し、「そもそも体験していない。予約前の段階」では、ツアーが楽しいと知らないのは当然ことです。
そもそも人間が、「ツアーに参加したいと思う根源的な欲望」はなんだろう。という問いからたどり着いた、人間の欲望の本質に関する本。ルネ・ジラールの「模倣の欲望」理論について書いた本です。
読みにくいですが、現代社会のSNSの隆盛を考えると、このルネ・ジラールの「模倣の欲望」理論は、正しいのではないか、と思います。(もちろん、マズローのような「欲求」も重要で、これはまた別の側面からツアー参加理由を補強していると思います。)
4、戦略部分/番外編/知識、歴史
本質的には上記の本が学べると思いますが、もしご興味あれば下記の本を読むのも知識としてはよいかもしれません。
ダイビングのエスノグラフィー/圓田浩二
日本のアクティビティ業界の中では、わりと早く成熟したダイビング業界で起こった問題について、内情も含め、詳細に記述した怪作。読み応えあります。
アドベンチャートラベル大全/水口猛他
大全というなのとおり、大まかに今までの日本でATがどのように普及してきたか、あるいはどのようなものなのか、について広く浅く知りたい場合は、この本を読んでもよいと思います。
観光旅行の心理学/佐々木土師二
古い本が多いので、最新の理論から考えると少々古いという気もするのですが、それでもなお、今までの日本の観光旅行業界の中で、観光と心理という稀有なテーマに迫った本としては価値があると思います。
ただ、「旅行にでかけたい」「観光したい」という顧客の深層心理の説明の中に、「マズローの法則」を取り入れているのは特筆すべき点かなと思います。
5、戦略部分/マーケティング
巷では、「SNSをどう使うとか、SEOをどうする」などといった話に注目が集まりがちですが(それも大事ですが)、「そもそも体験ツアーになぜ顧客が興味を持ち、来るのか」といった目的や理由、インサイトの部分を把握することのほうが極めて重要です。こういった根本的な原因や心理の解明なくして、SNS対策やSEO対策、予約エンジン対策などウェブマーケティングを行っても、根本的な解決にはなりません。戦略部分は主に、こういった根本部分を考える本になります。
マーケティングの世界の本は、基本的に「物を売る」ことをベースにしているのですが、体験ツアーは「ことを売る」ので対価として何か「物質的なもの」を受け取ることはありませんし、顧客の「不便」を解消するソリューションを提供するものではありません。体験ツアーは、「情緒的な価値を提供する商品」なので、「物」マーケティングの本が、ドンピシャで知りたいことを書いていることはほとんどないのですが、基本的な考え方を抽象化することで、体験業界にも応用できることが多いと思います。
アドベンチャーツーリズム/欧米豪ターゲットの場合
ATや欧米インバウンドの場合、端的にいえば、toCマーケティングはすべてエージェントに任せることになると思います。営業活動や商談会、PRやメディアでの露出で決まる世界ですので、担当者がウェブマーケティングに時間を投じるよりは、エージェントにまかせてしまうことをおすすめします(というか、マーケティングのターゲットがエージェントの担当者になる、toBマーケティングを行う必要があるということです)。このBtoBtoCマーケティングについては、またの機会にとりあげようと思います。
ただ、今のZ世代が「今後SNSやWEBを離れて、旅行の予約をエージェントに全面的に切り替えるか」と問われると、「んー。超忙しい富裕層以外はどうかな」という気もするので、toCを全く勉強しないままエージェントに100%依存するのも、数年後を考えると怖いような気はします。インフルエンサーやキュレーターがSNS上でエージェントの役割を代替するような気もします。※個人的な懸念です。(to Cのマーケティングが必要であれば、下記をお読みください。)
趣味と観光と教育とリフレッシュ
もう何百回も言っていますが、顧客を「観光客」と一括りし、「観光のマーケティング」という一つの概念で、マーケティングを行うのは、間違っていると思います。少なくとも顧客のセグメントとして主要なものには4つあると思いますし、それぞれの顧客のニーズに対して、最適なプロダクトの造成、情報発信を行う必要があると思います。(と、いつもお話ししている通りです。)リピート率や顧客単価、検索クエリなどあらゆるパラメータが変化します。(ただ、4つのセグメントの顧客がツアーに参加した結果、ツアーが「楽しい」と感じる理由は、フローに依ると思っています。)
そもそも顧客が「趣味としてあるアクティビティに興味を持つかどうか」や「教育目的で子供を自然の中で遊ばせたい」というような、きっかけ、根源的な部分は、上記に紹介した、「ルネ・ジラールの模倣の欲望理論」である程度説明できるのではないかと思います。
USJを劇的に変えた、たった1つの考え方/森岡毅
顧客が何を求めているのか、という観点から、ハリウッド映画のテーマパークから、全年齢楽しめるテーマパークに変換したという流れは学ぶことが多かったし、体験ツアーでも重要な部分だと思います。
ファンダメンタルズxテクニカルマーケティング/木下勝寿
いきなりマーケティング要素多めになりますが、ファンダメンタルズ、つまり戦略部分を理解しないと、テクニカル、つまり戦術部分が機能しない、という意味において、この本は学ぶべきことがたくさんあります。
ファンベース/佐藤尚之
特に趣味層をターゲットにしたガイドさんが重要視すべきなのは、このファンマーケティングだと思います。ガイドさんの場合、かならずツアーには人が介在する強みがあります。僕自身がずっと行っている顧客アンケートでは、リピートしたい理由にガイドの人柄をあげる人がトップで、ファンマーケティングが相対的に行いやすいビジネスでもあります。(もちろん観光客相手か、趣味客相手かの違いは大きいのですが)
※なお、リピーターを増やして収益を安定させるビジネスができるのは、体験アクティビティ業界のうちの一部だと思います。国内の趣味層やリフレッシュ層、おおむね移動時間が片道3時間以内(もしくは相当の金銭負担)に顧客が住んでいる場合に限ります。またリピートの頻度もアクティビティの場合、月1回以上リピートするのは趣味層をターゲットにしたアクティビティで、リフレッシュ層の場合、年に1〜2回程度だと思います。例外的に、石垣島のダイビングなど、LCCが飛んでいる状況、かつ、趣味軸が強い場合には、距離が遠くても月1回程度のリピートが発生する場合もありますが、それとてやはりLCCによって、上記の移動時間、金額の条件内のできごとだと思います。これもフロー理論が絡んできます。
6、戦術部分/マーケティング
戦術部分のマーケティングは日進月歩なので、Youtubeで学んだり、なるべく最新の技術を入手することが重要だと思います。今回紹介する本以外にも、戦術マーケティングの話について書かれた本は本当に多く読んできました。
ただ、本は、発売された瞬間から少しづつ遅れていくので、そういう意味だと戦術マーケティングの具体的な方法論は、本で学ぶより、ネットで調べたほうがよいような気がします。
そんな中でもあまり変わらない基本的な部分が学べる本としてピックアップしました。(どちらも比較的新しい本です。先端のマーケティング手法もカバーしています。)
デジタルマーケティングの定石/垣内勇威
「流行っているSNSをやればよい」など、流行り廃りに惑わされず、自分自身の商品の価値と顧客が真に求めているニーズやウォンツに情報を届けるにはどうすればよいのか、という意味で、学ぶことが多い本です。
マーケティングつながる思考術/池田紀行
こちらの本もおすすめです。具体的な方法論というよりは、それぞれの方法論をどう効果的に使えばよいか、という本です。