『医師の働き方改革 完全解説』 【はたらきがい共創社労士読書録】
1.はじめに
ご存じの通り、4月1日から医師・ドライバー・建設業における時間外労働の上限規制が強化されました。
それぞれの業界の「2024年問題」として、マスメディアで頻繁に取り上げられ、どんなことが起きているのか、あるいは起きようとしているのかは、多くの方が関心をお持ちのことと思います。
しかし、今回の「働き方改革」と言われる法令の詳細については、なかなか目にすることがないように思います。とりわけ「医師の働き方改革」は制度が難解な上に、複数の法令が絡み合って複雑になっており、理解しづらいものとなっています。
個人的に関心が高いテーマでしたので、先月日帰りで選抜高校野球を観に行く、往復の新幹線の中で読みました(肝心の野球は雨天順延となってしまいましたが)。
本書は、厚生労働省で医師の働き方改革の施策に携われた弁護士さんを筆頭に、医療法務・労働法務に精通する弁護士方が、医師の働き方改革に関する最新の法令解釈や実務運用について解説しています。
秀逸な名著だ!と感じました。私のように医療の現場には縁遠い者にも、とてもわかりやすく解説されています。先日、編著者である益原大亮先生のセミナーも受講しました。
医療に関わっている皆さんはもちろんのこと、人事労務に関わっている方にも読んでいただきたいと思い、ご紹介させてもらいます。
2.本書が優れていると感じたこと
今回の改革の大きなポイントは、今まで猶予されてきた労働時間規制が医師にも適用されるということです。
しかし、すべての医師にそのまま「一般業種の上限規制」を適用した場合、医療提供体制が確保できなくなるため、水準を定めて「特定医師」として「医師の上限規制」を設けました(下表参照)。
併せて、「追加的健康確保措置」として、面接指導と勤務間インターバル(および代償休息)が義務化されました。
私が本書が「優れている!」と感銘を受けたポイントを、箇条書きで列挙いたします。
・第1章で、医師の「働き方改革」の経緯と概要がコンパクトにまとめられています。
・第3章「労働時間規制」は一番多くの紙幅を取り、労働基準法の原則から始まり、医師の時間外労働の上限規制について特定医師の水準ごとの詳細、36協定の内容などが詳しく解説されています。
・加えて、今回の法改正の対象外ではありますが、割増賃金(固定残業代含む)や、変形労働時間制、専門業務型裁量労働制、管理監督者など、労働時間に関することが網羅されており、実務に携わる皆さんがハンドブック的に活用できるものとなっています。
・第3章第5節の「労働基準監督署の実務」は、一般的な監督指導について解説されていて、医療機関以外でも参考になります。
・第4章「追加的健康確保措置」では、面接指導と勤務間インターバル(および代償休息)について、図表を頻繁に使い、わかりやすく解説しています。特に、わかりにくい勤務間インターバルや代償休息の仕組みについて、具体例を図で説明してくれています。就業規則の規定例もありがたいです。
・第5章「特例水準の指定に関する手続き」では、煩雑と思われる手続きについて、こと細かく書かれていますので、スムーズな手続きをサポートしてくれるものと思われます。
・第6章「医師の働き方改革の実務対応」では、「タスク・シフト/シェア」について、看護師や薬剤師、診療放射線技師、臨床検査技師、救急救命士などの医療関係職種が行うことができる業務が列挙されています。タスク・シフト/シェアを検討する際に、参考となるのではないでしょうか。
・最終章の「働きやすい職場」では、育児・介護やハラスメントについて解説されています。医療現場における働くルールがギュッと詰まった1冊なんだと感じました。
・巻末の関係資料集は、QRコード付いていて、実務家の皆さんには利便性が高いです。
・図表が多く使われていたり、36協定などの記入例が掲載されていたりして、見やすく・わかりやすい構成となっています。
・今回の「医師の働き方改革」により導入された項目には「対象」、「医師の働き方改革」に関連する項目に「関連」のアイコンが付されていて、一目でわかります。
・根拠法が記載されていることや、判例(裁判例を含む)も数多く掲載されているのは、実務家の皆さんにはとてもありがたいです。
・以上のことから、医療機関の経営や人事労務に関わる皆さん、弁護士や社会保険労務士の皆さんにおススメの1冊だと思ったわけです。
3.おわりに
新しい法制度が整い、4月1日にスタートしました。やはり、肝心なのは法改正の趣旨に沿って、きちんと運用ができるかということです。
すでに、宿日直の濫用や、研鑽時間の不適切な運用などの事例が聞こえてきているようです。一方で、医師の派遣を受けていた地域病院で医療提供体制が維持できなくなってきたという報道もあります。
法改正時には、混乱や“副反応”もあり、定着するまでには時間がかかることもあるでしょう。また、医療関係者皆さんだけでなく、患者となる私たちの理解を広げていくことも必要不可欠なのではと思います。
「人の命を守る」医師の皆さんの「命を守る」ための法改正だということを認識しておきたいですね。
「医師の皆さんの命を守る」ために、労務管理などで我々社会保険労務士がお役に立てることがあると思います。お気軽にご相談ください。
お問い合わせは、こちらまで。
https://www.hatarakigaiks.com/form.html
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?