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小説「そして」
そして……。
わたしの一日はいつもと同じ夕方から始まる。目を覚まし、窓から夕日が沈むのをぼんやり眺めてから身支度を始めた。財布の中を確認し、千円札の数を数える。金があれば趣味に使えるが、無ければ仕事をしなくてはならない。が、二日酔いで多少頭がぼんやりするせいかよく分からない。それに今日もまたあそこに行くのかなと思うと不思議と気分が楽になる。
わたしの日課は夜の占いである。昔は占いなんて全く興味も無かったのだが一度通い出すと、不思議と抜けられなくなってしまったのだ。安心を求めていたわたしはすぐにハマってしまい、自分でも占える程になっていたのだ。
また今日もいつもと変わらない場所で席についた。
× × ×
「どうもこんばんは。そろそろ来る頃だと思っていましたよ。ささ掛けて下さい」
「こんばんは、やっぱり分かっていたんですね。何だか最近毎日のように来ている気がするから、まぁ気のせいだとは思うんですけどね」
「そんな事はありませんよ。わたしだって毎日の事なんで昨日も今日も同じような気がしますよ。ところで今日はどういったご相談で?いえ、言わなくても分かっていますよ。あなたは安心を求めているのでしょう?それもただの安心では無く、永遠に続く安心が欲しいのでしょう?」
「ええ、全くそうですわ。でもそれって誰でも思う事ではないでしょうか、わたしやあなただってきっとそれを望んでいると思うんです、ただ何となくですけど」
「そうですね、わたしも永遠の安心があるとしたら、是非欲しいものです。でもそんなもの、果たしてあるのかどうか、こればっかりは占いでも分からない。分かる事はあなたが安心した生活を手に入れられるのかどうか、という事だけです」
「そうですよね、でも例えばメビウスの輪のように裏と表が一体になっている安心があったらどうなりますか?安心をぐるぐる回ったら永遠と同じようなもの、そうしたら永遠の安心だわ。でも、わたしの裏は誰になって、もしかして性別も入れ替わっちゃうとか?」
「さあ、どうでしょうか。ただよくあるじゃないですか、SFの世界では毎日を繰り返してしまう人もいるんだし、でもそんなのは所詮フィクションの中でしかないんです。現実を見て下さい。現にわたしは男であなたは女性なんだから。入れ替わるなんてあり得ないんです。もしそうだとしたら…」
「だとしたら?」――
「いえ、ごめんなさい。あまりにもあなたの顔がわたしに似ているのもだからつい、ほら見てごらんなさい」
「うわ、本当にそっくりですね!あなたの顔ってまるでわたしと瓜二つじゃないですか!」
「そうでしょう?わたしびっくりしちゃって。ところでごめんなさい、あまり顔を見せるのもね?仕事上あれなんで」
「いえいえとんでもない。びっくりしましたよ。いや、世の中には似ている人が三人はいるって聞いた事がありますが、まさかこんな所で、しかも異性の方とは驚きましたよ。ところで、わたしの占いはどうなりましたか?」
「はい、それなんですけどね、どうも二日酔いのせいか、――いえごめんなさい、こっちの話です。あなたの求める安心ですが、もうすでに身近にあると、こう占いには出ているんですね。なにか毎日の中ですでに見つけられているのでは?」
「はあ、そうですか、何だかよく分かりませんが、でもきっとわたしが見落としているのかも。灯台下暗しと言うのか、ただ何か頭の裏側がちらっと気になってはいるんですよね」
「きっとそれですよ。でも、これだけは覚えていて下さい。安心とは不安があって初めて成立するものなんですね。むしろ不安が無いと安心だってあり得ませんから。メビウスの輪のように裏と表の関係なんですよ。では、もうそろそろお時間なので、今日は千円でいいですよ」
「はい、では千円で。ん、千円?何か頭に引っかかるような、この千円札、毎日見ているような」
「気のせいですよ。お金なんてみんな同じ顔ですから。ではお気をつけてお帰りなさい。ありがとうございました。」
× × ×
帰宅してから、いつものワインを開けるのがわたしの日課になっていた。こんな夜はどうも朝まで飲まないとうまく寝付けない。千円で購入したはずのこのワインをいつ買って帰ったのかはもう覚えていない。そして今日も、朝日の中泥酔したわたしの一日は終わる。
そして、――
――――――――――――――――――
※2015年頃の作品です。
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