「初めての人生の歩き方」(有原ときみとぼくの日記) 第47話:これが人間って生き物なのさ
日曜日、彼は彼女と子供と三人で映画を見に行った。
最近彼が子供の影響でハマりにハマっている「すみっコぐらし」の劇場版だ。
(彼はとかげファンだ。あの口がたまんない。そして隠れとんかつ推しだ)
その日は乾いた天気で、久しぶりの街中はコロナウイルスのせいかどこかさみしく見えた。
そんな中、彼らは少し急いで歩いた。上映時間の前にトイレとポップコーンを買いたかったから。
大人だけならそんなことは余裕だけど、子供がいるとこれがなかなかうまくいかない。なにが起こるか分からない。だから早めに着くに越したことはないのだ。
到着。
難波にあるこの映画館、実は彼が昔バイトで働いていた苦い思い出のある映画館だった。
係の人に聞きながらチケットを発見。トイレを済ませて売店へ。
「悠二くん、昔はここで働いてたんだよ」
「そうなんー?」
そんなことには興味なしの子供は、すでにポップコーンにくぎ付けだ。
甘いキャラメルの匂いが、彼の思い出と絡まって、彼は再度トイレに行きたくなった。
☆
場内の暗闇とどこかで誰かが話しているわずかな声が響く独特な空間。
この狭い空間がこれから彼らを別の世界へと連れていく。
上映間際、三人が座ってポップコーンを食べていた時、彼女がなにかの拍子でポップコーンを盛大にひっくり返してしまった。
焦ったのは彼女だけではなく、子供は茫然とし、彼はなんて声をかけようかただうろたえていた。
開演までわずか。
周りの視線と恥ずかしさから彼は不安に駆られた。その不安は一瞬で怒りに変わりそうになったが、ふと彼女を見ると、――そうだ、一番怒鳴りたいのは彼女の方だ――と、怒りはどこかへ消え、その空いた穴に慈しみがわいてきた。
(ただ、もしかしたら、本当はここでいいいとろを見せて、もっと惚れてほしい、褒めてほしい、かっこいいと思ってほしい、などといった邪心も、あったにはあったのかもしれない)
「大丈夫。拾っておくから、係員の人に伝えてきて。ポップコーンこぼしたので、あとでいいので清掃お願いしますって、ここの座席番号も伝えてね。もしかしたら、新しいポップコーンがもらえるかもしれないし」
と言った。彼女はでも、だって、とかたくなに動こうとしなかったけど、三回目ぐらいの説得でようやくようやく立ち上がった。
その間に床に散らばったポップコーンを、彼と子供が拾い集める。手がべとべとしてくるが、これが案外気持ちよくて、掃除はあっという間に終わった。最後に床を手の平でなぞって、二人で手をおしぼりで拭いて、ちょうどそこへ係の人がやってきた。手にほうきと塵取りをもって。
その後ろで彼女が申し訳なさそうに立っていた。
山盛りのポップコーンを手に。
掃除はほとんど終わっていたので、集めたポップコーンを係の方に渡して、ぼくたちは席に着いた。彼女の話によると、ポップコーンは無料でもらえたらしい。
「あ、始まりそう」
世界はここで暗くなった。
☆
彼は映画を見て泣いていた。
子供向けほど泣ける映画はこの世にない。
この瞬間、世界は輝いた。
☆
映画が終わって、喫茶店へ。
どこに行こうか迷いに迷って、彼が適当に調べたお店の中に「爬虫類カフェ」という候補が出てきた。
彼女ははちゅ類が好きだ。
なので行ってみることに。
難波の裏側にあるそのお店は、子供と一緒に入ってはいけないような雰囲気だった。が、ここまできたからには、ドアを開ける。
「いらっしゃいませ」
瞼にピアスを開けているお兄さんと、生き物が放つなんとも言えない独特な酸えた匂いがお出迎え。
どうやら子供も大丈夫そうだ。
席に案内され、説明を受ける。
店内には数多くのゲージがあり、その中にトカゲやイグアナやヘビ、さらにタランチュラや頼めばゴキブリも出てくるそうだ。
早速物色。
お気に入りの子を選んで、席に戻りひざの上でかわいがる、というシステムだった。
彼らは爬虫類を愛でた。
嫌がるかと思っていた子供もまさかの溺愛。
「持って帰りたい」
とトカゲの高橋さんにべたぼれだった。
(このトカゲだけ苗字がつかられていた。面白いなぁ)
そしてこのお店、なんといってもメニューがすごい。
普通の喫茶メニューはもちろん、いろいろな虫やゲテモノが味わえる。
彼の好奇心は高鳴った。
しかし、気持ち悪い。
彼は決めた。
ミルワームの素揚げならいけるかも、と。
しかし、一応スマホで検索してみる。
これがいけなかった。
彼はあきらめた。
そしてみんなでトンカツを食べに行った。
☆
かわいくてたまらないすみっコぐらしの映画を見て、トカゲととんかつにキュンキュンして、実物のトカゲを見に行って、そこで虫を食べようか悩んで、結局トンカツを食べに行く。
情緒不安定!
これぞ人間だなぁ、と彼は思った。
人生は人の生だ。
初めての人生、人間らしく、人として生きていきたい。
大好きなキャラを食べるぐらい、強欲に生きていきたい。
夢のような、
その先に、
きっと本当の夢が待っている。
世界は
いつも、
映画館のように、
きみの見たい世界を映してくれるから。
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