「初めての人生の歩き方」(有原ときみとぼくの日記)第32房:奇跡は一秒に百回以上は起こっている、確実に。

 有原くんは四泊五日で実家に帰っていた。その間、一度だけ両親と彼の三人は出かけることにした。
 彼の住んでいる地方は出雲の近く。他に行くところもない田舎なので、彼らは出雲のどこかまだい行ったことのない神社にいくことにした。

「大社は正月に行ったし、お父さんどこかない?」
「そうだな、お母さん、どこかしらんか?」
「……万九千神社はどう?」
と言った流れでその神社で。

 その数日後。
 三人でお昼ご飯を食べに行くことになった。最近できたうどん屋さんだ。しかもそのうどん屋さん、もともとは出雲に昔あったそうで、なんと彼が赤ん坊のときによく食べに行っていたそうだ。つまり、ふるさとの味だ。
 お店は昼過ぎのせいか比較的すいていた。彼らは各々好きなうどんを注文する。うどんが来るまでの間、雑談したりの暇つぶし。他のテーブルから笑い声が響くと、なぜか三人の声は小さくなる。
 そのとき。
 有原くんの目がテーブルの箸や爪楊枝が置いてある隅を捉えた。そこにはなんの変哲もない七味が置いてあった。ただ、市販のよくある赤い七味ではなく、いかにもご当地産といった黒い瓶に入った七味だった。
 彼は驚いた。慌ててその七味を手に取る。それを見ていら両親が不思議な目を向ける。
「どうかした?」
「これ、見て!」
 そこにはこう記載されていた。

 ≪万九千神社の横の畑で採れたしょうがを使用しています≫

 なんという巡りあわせ。
 多分、奇跡。

 彼はこのような神社のまるで導きのような経験を最近頻繁にしている。今回のことはその中でも比較的ありふれた方だ。すごいやつになると鳥肌が立つ。

 神はいる。

 そう思うしかないような出来事。それは溢れている。そこにも、ここには、過去にも、未来にも。
 人生は奇跡の連続だ。有原くんは初めての人生でようやく奇跡を感じられるようになった。もちろん奇跡なんて信じなくても問題はない。ただ、長いようで短い人生、そもそも生まれたこと自体が奇跡なのだ。
 生きていること。地球の上で。誰かと出会い、誰かを愛し……。
 なにを思えばいい。なにか解明できるのだろうか。
 彼は純粋に捉えようとした。

 だから彼は祈った。感謝した。ありがとう。
 ―-と。

 そして奇跡の七味がレジの横で売っていたので、500円と七味のくせに高かったけどもちろん買いました。
 現在その七味は、まだ封すら切られていない。

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有原野分
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