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イギリス英語のとてつもない響き

語学学校の朝は早い。わたしにとっては。9時半に始まって3コマ、お昼休みを挟んで2コマ、の授業を受ける。だが、さらにわたしには受けなければならない授業があった。いや、そもそもそっちが本分であった。それは、コミュニケーションスキルについてのプライベートレッスンである。

わたしは日本でコミュニケーションスキルやプレゼンテーションスキルを教える仕事をしている。もちろん日本人に日本語でね。その分野でのブラッシュアップを図るなら、やはり海外に行って勉強しておいた方がいい、そうメンターに言われたのが留学のきっかけだった。その年配メンターの方もやはり長い海外経験をお持ちだったし、イギリスの時期も長かったのだ。当然イギリスにいろんな人間関係があって、あっという間にその先生に話をつけてくれてしまった。

最初にコンタクトを取ったのは電話でだった。いま考えるとおそろしや。いや、その時もおそろしかった。会話というのは電話が一番難しいと思う。喋れない聞き取れない、なのに、紹介していただいた礼儀を持ってお話ししなければならない。しかし何があってもどうにかなる精神だけは持ち合わせているわたし。ロンドンに着きました、と連絡し、何を言われているのかさっぱりわからなかったが、最初のレッスンの約束だけ取ることができた。どんな先生なんだろう。年配の女性で女優さんだということしか知らない。レッスンもどんな内容になることやら。

語学学校では毎日授業を受け宿題をこなしていたが、初回のレッスンまでに飛躍的に英語力が上がるわけもなく。翌週にはその日を迎えていた。学校が終わると地下鉄の駅に向かい、ウィンブルドン行きの電車に乗る。そして、パットニーブリッジという、ロンドンの中心からさほど遠くはない駅で降りた。のどかな街だった。大きな公園があって、リスがたくさんいた。ここに限らずロンドンの公園には必ずリスがいるのだ。そして公園を抜けさらに歩いていくと集合住宅のようなところがあり、その一角にヴィヴィアンの家はあった。

わたしはそれまで、イギリス英語というものにあまり興味がなかった。どちらかといえば映画やドラマで馴染みのあるアメリカ英語の方が英語っぽい気がしていたし、なんたってイギリスに来たかったわけじゃない、ってくらいだから。それと、アメリカ英語よりもイギリス英語の方が聞き取りやすい、とか、ちょっと堅い感じ、とか言われることも多いのを考えると、やっぱりあのカジュアルでテンポが速くてまくし立てるようなアメリカ英語の方がいいなぁ、などと思ったりしていた。

ヴィヴィアンは、見るからにイギリス人という感じの金髪ボブの小柄な女性で、とても感じよく迎え入れてくれた。そして、初めて挨拶をした時から、わたしはその声に魅了された。女優さんだから当然なのであろう声のクリアさもさることながら、ブリティッシュイングリッシュの発音の美しさにハッとしたのだった。

イギリス英語はアメリカ英語とだいぶ違うと言われるし、日本にいてもそれは常識のように知っている気がするけれど、実際どのように違うのかはあまり分かっていないかもしれない。もちろん、語学学校の先生たちもイギリス人だしイギリス英語を話す。だが、ヴィヴィアンのそれはちょっと違った。本当に、聞いているだけでうっとりするほどずっと聞いていたい音。そんなことを思いながら、わたしは意味のわからないその美しいサウンドに聞き入っていた。続く。

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