閉店後の館内に響き渡る悲鳴-虹色百貨店第5回
吉田係長との思い出は話せばきりがないほどたくさんある。
今日はその中で一番強烈だった話をしたいと思う。
ある日、返礼品として同じ商品100個の注文が入った。お客さまが全てお持ち帰りになるという。当然在庫がないので商品を取り寄せ、入荷後は開店中は包装する余裕がないので、残業で包装することになった。
ちょうど繁忙期で、それぞれの係員が残業しての作業があったので、吉田係長がその返礼品を全て包装することになった。
閉店後の館内は、BGMもなく、空調も切れ、シーンとした中で各自がもくもくと作業をしていた。
すると突然
「ひえーーーーーーーーっ」
という悲鳴が館内に響き渡った。吉田係長の悲鳴だ。
何事かとみんなで駆け寄ると、
「外のしだったのに、全部中のしで包装してしまった!!!」
と頭を抱えていた。
進物品の場合、のし紙をかけることが多いが、包装の下にのしをかける場合と、包装した上にのしをかける場合がある。配送なら上にかけると破れる可能性が高く普通は包装の下にかけるが、直接渡す場合は上にかけることもある。上にかけるというお客さまの指示だったのに、下で包装してしまったらしい。しかも、100個全て包装が終わり、改めて伝票を確認してわかったので、100個全部やり直さなければいけない。
落胆する吉田係長を尻目に、みんな爆笑していた。
包装紙を一枚ずつビリビリ破る吉田係長の背中を決して忘れることができない。
閉店後の館内に響き渡る悲鳴と笑い声。
今考えても平和な時代で、従業員にとっても最高の店だったと思う。