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所有物

私の住まいは東京のはずれにある。はずれ、とひとくちに言ってもいろんなレベルのはずれがあると思うが、自分で言うのもなんだが結構なはずれである。

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都心に行くにも移動時間が長いうえ、終電の時刻が早いので、飲み会などがあっても二次会にすら行けたためしがない。酔いがまわり、いい気分になってきたくらいで帰路につく。もっとも、私はそういった賑やかな場が苦手だから、その場から離脱するいい言い訳にもなった。おかげでお酒での失敗は皆無に等しい。

どこへ行くとしても2時間は見込むような最寄り駅から、さらに1キロほど歩いたところにある我が家。玄関を開けて(大抵猫が迎えに出てくる)、正面の階段を上がった2階の東に面しているのが私の部屋だ。木のドアは猫のひっかきキズでささくれ立っている。

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部屋には東に向いた大きな出窓と南向きの窓、それにベランダへ出るための扉がついており、それぞれくすんだピンク色のカーテンがついている。出窓は猫のお気に入りの場所で、よくひなたぼっこをしながら毛づくろいなどしているものだから、そこらじゅうに猫の毛が落ちている。南向きの窓に沿って置かれたベッドは子供のころに使っていた二段ベッドを分解したもので、片割れは弟の部屋にある。キャスキッドソンもどきの花柄のベッドカバーはしまむらで買った安物だし、枕もホームセンターで千円しないような簡単なものだが、どうせひとりと1匹しか使わないのだからかまわない。以前に枕として使っていたクッションは、へたってしまったので捨てるつもりだったが、あまりに猫が気に入っているので座布団として床に置いた。

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私がリビングにいて、猫の姿が見当たらないなあと思うと、だいたい私のいない私の部屋で、クッションの上に丸まって寝ている。ときには出窓に、またあるときは布団に入ってくつろいでいる。もはや、私の部屋というより猫の部屋である。そんな猫に振り回されて、彼中心の生活をしてしまっている私自身が、ひょっとしたら猫の所有物なのかもしれない。

誰かさんがいたずらして剥がしてしまった壁紙をむしりながら、そんなふうに思った。

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