新品入れ替えと忘れ去られていく記憶。
BBCニュースでイギリス英語を勉強していた時のこと。テーマはロンドンの赤い電話ボックスの再利用について。
携帯電話の普及で、どこにでもあった電話ボックスが、利用者の減少で次々と衰退していったのは、日本だけではない。ロンドンで街のシンボルである電話ボックスは、赤字と治安の悪さを連想させる落書きにより居場所を失い、撤去作業が進んだ。
ロンドンバスや電話ボックスと、ロンドンの生活は「赤」と切り離せない。近衛兵の制服も赤であることから、国民は、ロイヤルファミリーとの繋がりを表すものとして、その色や伝統に誇りを強く持っている。誇りとプライドは表裏一体だ。常に、観光客が絶えないロンドンでは、街のシンボルであった電話ボックスを、再びロンドンに取り戻そうと、盛んな動きを見せている。
昨今、電話ボックスとして機能を果たさなくなったそれは、用途を変えるアイディアにより、フリーライブラリー、帽子屋、携帯の修理屋、ATM、案内所、売店などに姿を変え、ロンドンのシンボルとして再び居場所を取り戻している。
また、電話ボックスで帽子屋を始めた人は、「ロンドンのシンボルの中で働くと言うことは、自分もロンドンのシンボルになれたようで、誇り高いよ。場所も取らないから利益率も高いしね。」とインタビューに答えていた。古いものや伝統を大切にするイギリスの性格であり、それを今の時代に上手にマッチさせた取り組みである。
かつて日本のあちこちにあった緑色の電話ボックスは何に姿を変えただろうか。新しもの好きで常に新品が好まれ、新店に長蛇の列ができる日本では、何かが撤去された1ヶ月後には、もうそこに何があったのかすら思い出せない。
東京は同じ街に暮らしていても、記憶は途切れ、今アドレナリンを誘う刺激で溢れている。ビジネスチャンスや上昇志向だけが這いずり回って評価の対象となり、新しいものに押し出され、お金を生めなくなった古きものはお金の力で即撤去。
住んでも住んでも、思い出を更新せざるを得ない東京では、いっときのスポットライトと新品に押し出される寂しさを感じられずにはいられない。
東京のシンボルはなんであろう。
ドラえもんやドラゴンボールなどのアニメは時代を超えて世界を飛び回る外交官であるが、そこに暮らす人々は本当に豊かであろうか。
その街のシンボルを大切にする心は、つくづく美しいと、遠国の文化に思いを馳せずにはいられない。
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