
エンドレス 【超短編小説】
ふと気がつくと、顔に涙が乾いた跡があった。うたた寝して、怖い夢を見ながら、涙を流したのだろうか。自分はとても推理が好きだ。一つの事実に対してとても深く考えるのが楽しいと思っている。
「〇〇、生きているの!?返事をして!」
急に必死な祖母の声がした。そりゃあ生きているさ、と思っている反面、少し安心した自分がいた。ああよかった、祖母は自分を見捨てなかったのだ。と。
「何をそこで、騒いでいる。ここは病院だぞ!それぐらいわかるだろう、ババアでも。」
太い声がここに響いた。とても大きな声だった。そして、祖母を怒鳴りつけた。
『ババア』と呼んで。祖母は固まっている。びっくりしたのとショックだったからだろうか。祖母の悲しそうな姿を見て、自分はいてもたってもいられなくて起きあがろうとした。けど、無理だった。魔法にかけられたみたいに、動かなくなった。悔しかった。
看護師さんらしき人物がここに入ってきた。さっきの男の言う通り、ここは病院らしい。そして、自分は患者として、ここにいる。祖母は見舞いに来たのだろう。でも、頭痛や腹痛と思われる痛みの症状は出ていないし、めまいや吐き気、かゆみといった不調も感じられないのだ。病院にいる意味がわからない。
「〇〇、おばあちゃん帰るからねえ。おばあちゃん帰るからねえ。聞こえてるのお?大丈夫?」
祖母が自分が聞こえていないかのように接してきた。聞こえているが、体の感覚がない。脳が働いている感覚もない。祖母にそのことも伝えられない。肉体的に。そんなことを考えていたら祖母はそこにいなかった。
「〇〇さん、帰りましょう。」
看護師さんが立てないはずの自分を持ち上げて、歩かせようとする。だか、この時だけ不思議と歩けていた。
『どこへ帰るのですか。』
呼吸も難しくなってきたけれど、大きく息を吸って小さな消えそうな声で、看護師さんに聞いた。
「みんなの居場所だよ。大丈夫。みんないるよ。」
看護師さんが、不気味な笑顔で答えてくれた。みんなの居場所といえば、家。そこしかない。家に帰るとなると楽しくなってきた。
「楽しみだね。でもお姉さん、一緒に行けないの。ごめんね。ここから先は一人で行ってくれる?」
看護師さんがそう言って、繋いでいた手を離した。
楽しみだったのが萎んでいくような気持ちになった。また一人になるんだな、と。みんないると言っていたからそれを信じるしかない。そう思っていた。
でも目の前にあった光景を見たら自然と涙が溢れてきた。