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星芒鬼譚20「…落ち着いてるわけない。だが今騒いだってどうにもならないだろうが」

「一体何がどうなってんだよ…」

光太郎がため息交じりに言った。
運転席の夏美は無言でハンドルを握っていた。
二人はあのあとなんとか城から落ち延び、車まで辿りつくことができた。
が、その間夏美はずっと黙ったままで、光太郎は状況が把握できないままだった。
真っ暗な山道を普段よりも上げた速度で降りていく。

「なぁ、お前何か知ってんだろ」

助手席から聞いても、夏美は前を睨みつけるばかりで一言も発さない。
もともと言葉数の多いほうではないが、こうやって押し黙るときは何かある。
長い付き合いだ、それくらいわかる。
意地でも喋らないという様子なので、光太郎も黙って座り直すと、窓の外を眺めることにした。
車内に沈黙が流れる。
信号が赤になり、夏美はブレーキを踏んだ。
どのくらい走っただろうか。もう鞍馬山からはだいぶ遠ざかっていた。

「…武仁はあちら側についたらしい」

夏美がぽつりと言った。
ふと見ると、夏美は助手席とは反対に顔を向けており表情はわからなかった。
光太郎は一瞬夏美の言葉が受け入れられなかった。

「…は?どういうことだよ」
「寝返ったんだ、九尾の側に」

ようやく理解できてきた。
武仁が、俺たちを裏切った…?

「なんで、」
「私にわかるわけないだろ」

ぴしゃりと言われて、光太郎は何か言い返したかったが何を言い返せばいいかわからずに黙ってしまった。
夏美は小さく息を吐くと、顔を背けたまま淡々と続けた。

「…あの鬼、茨木童子と名乗っていた。千年前私たちの先祖が倒した鬼の名だ。何か手立てはあるはずだが、武仁はまたお前を狙ってくるだろう。だからその時は」

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