星芒鬼譚15「身に降る火の粉は払わにゃならないってね」
アマニータ、マルコ、フランケンの三人は、鬱蒼と茂る木々の中をひたすらに駆けていた。
「おい、なんかさっきから変じゃねえか?」
息を切らせながらマルコが声を上げた。
アマニータもフランケンもなんとなく気づいてはいた。
いくら森とはいえ、景色が変わらなすぎる。走っても走っても進まないような、奇妙な感覚がしていた。
「よくわかんないけど、今はとにかくあいつから離れるしかないでしょ!」
ざあっと突風が吹き、三人は顔を伏せた。
「そう簡単に逃がすわけがなかろう」
地を這うような声に、アマニータはうなじが強張ったのを感じた。
立ち込めた冷たい霧の中に玉藻が立っていた。
前がだめならと振り返ると、そこには義手の女鬼が刀を構えていた。
退路が、ない。
三人に緊張が走った。
「マジかよ…」
マルコは歯噛みした。
アマニータがごくりと唾を飲んだ横で、静かに拳を構えながら、フランケンが言った。
「如何いたしますか、アマニータ様」
目を閉じ小さく息を吐くと、アマニータは二人に視線を送った。
フランケンもマルコも、次の言葉はもうわかっていた。
「身に降る火の粉は払わにゃならないってね」
「だな!いけるかフランケン」
体勢を低くしたマルコにフランケンは「いつでも」と短く返事をした。
玉藻が真っ赤な唇の端を吊り上げる。
「我に挑むか?身の程知らずが」
瞬間、フランケンは玉藻に、マルコは女鬼に飛びかかった。
飛んでくる白銀の刀を避けながらアマニータは呪文を詠唱し、杖を天へと掲げた。
「サンダーストーム!」
稲妻が空を裂き、白銀の刀を退けた。
と思ったのも束の間、すぐに持ち直して襲い掛かってくる。
「嘘でしょ…」
玉藻はフランケンをいなすと、呆気にとられたアマニータを狙い、杖を奪った。
「返しなさいよ!」
アマニータは必死に取り返そうとするが、刀に阻まれてしまう。
玉藻は興味深そうに杖を眺めると、アマニータの呪文を真似して唱え同じように杖を天に掲げてみせた。
無数の稲妻が三人を襲い、まともに電撃を受けたアマニータはその場に崩れ落ちてしまった。
マルコがはっと息を飲んだ。
「アマニータ!!」
玉藻は倒れたアマニータのそばにゆっくりと屈むと、その顎を持ち上げながら言った。
「どうじゃ、自分の技を味わった気分は」
アマニータが小刻みに痙攣する手で玉藻の袖を掴んだ。
「付け焼刃の雷と、あたしの魔法を…一緒にすんじゃないわよ」
玉藻は鼻で笑うと、アマニータを地面に叩きつける。
フランケンは我慢ならず、玉藻へ向かおうと身を翻した。
その時、フランケンの胸を刀が一閃した。
なんとか踏ん張ったところを次々に刀が襲い、ついにフランケンはゆっくりと崩れていった。
「おい!フランケンてめえしっかりしろ!」
マルコが女鬼を抑えながら声をかけたが、ぴくりとも動かない。
玉藻は声を上げて笑っている。
「くっそ…!」
女鬼を押し退けるとマルコは玉藻へ向かっていったが、やはり刀に阻まれてしまう。
今、アマニータを守れるのは自分だけだ。なんとかして守らなければ。
刀を爪でかきわけても向かっていくその背中を、無情にも女鬼が斬りつけた。
マルコは痛みに耐えながら、気力だけで進んでいく。刀がアマニータを狙うのが見えた。
「させるかよっ…!」
間一髪、アマニータと刀の間に滑り込み、その身で刃を受け止めた。
「マルコ!!」
アマニータの声に振り返ると、マルコはへへっと力なく笑った。
刀の連撃をまともに食らい、脱力した体がどさりとアマニータの目の前で崩れた。
「マルコ…フランケン…」
震えながら体を起こしたアマニータも、為すすべなく刃の餌食となった。
あたりが静寂に包まれる。
玉藻が合図すると、女鬼は姿をくらました。
ふぅと息をついた玉藻の背後で、がさっと物音がした。
玉藻が指をつ、と動かすと白銀の刀が草むらを裂いた。
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