星芒鬼譚32「行くさ。だが、俺たちだけで玉藻と渡り合えるかどうか」
静まり返った廊下をひたひたと歩く音がする。
先頭で姿を現したのは金角、そのあとに銀角。
さらにあとから周りを警戒しながら道満とイヅナが続く。
と、奥からカランコロンと下駄の音が響いてきた。
銀角が道満とイヅナを柱の影に隠す。
現れたのは髪で片目を隠した小柄な少年、八頭身はあろうかというすらっとした切長の目の美少女、そして灰色のフードをかぶった長身で痩せぎすな男だった。
「あれ?人間のにおいがしたような気がしたけど…僕たちの勘違いかな」
「人間ならばあちらへ逃げたぞ」
首を傾げる少年に、金角が涼しい顔で、しれっと今来た方向を指し示した。
美少女が鋭い爪を出す。みるみるうちに目が金色に光り出し、口も耳元まで裂けていかにも化け猫という風体になった。
「あっちね!逃がさないわよ!!」
「いやちょっと待った」
灰色のフードの男が制止した。大きな前歯がねずみのようだ。
目を細めて金角と銀角をじとっと見ている。
「お前らはなんで追わないんだよ?」
少年の髪の間から大きな目玉がひょっこり姿を表し、腕組みをした。
「たしかに妙じゃのう」
目玉に直に胴体がついていること(しかも裸である)に衝撃を受けながらも、金角は決して涼しい顔を崩さない。
対して銀角は明らかに目を泳がせる。
「えっと〜それはぁ…」
すかさず金角がノーモーションで銀角を殴った。
銀角はどうしてと言いたげな顔のまま、よろめき後ずさる。
きょとんとしている一行に向き直ると、金角は仰々しく咳払いをして、いかにも当たり前というように言った。
「我らは玉藻様に呼ばれていてな。何でも急用らしい」
一行は殴られた銀角を見る。
銀角は視線を集めていることに気づいてはっとすると、激しく首を縦に振った。
おいおい、あんなので誤魔化せんのかよ。
柱の影で息を潜めながら、イヅナは道満を見上げた。道満は目でまあ見てろと言った。
「なるほど、そういうことじゃったか」
目玉の妖怪は、どうやら腑に落ちたらしい。
「それならしかたないですね、父さん」
片目の少年が返事をした。
“父さん”という呼称に本当はすごく引っかかった金角だったが(目玉が父さん?どういうことなんだ…)、ツッコむと話が長くなりそうだ。
ここは聞かなかったことにしよう、と自分の中で生まれた疑問を即座に揉み消した。
「行くわよ!」
「おう!」
一行は金角たちが元来た方向へと去っていった。
金角がふうと息を吐いた。
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