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星芒鬼譚31「生きてる限り闇はなくならない…そうかもしれねーよ。でも、それなら」

茨木童子と対峙したときから、分が悪いのは明らかだった。
光太郎も夏美も武仁もそれぞれに怪我を負っていたし、武仁はまだ稽古も経験も足りていない。
しかし、この戦いには誰が欠けてもいけない、必ず三人で倒さなくてはならないと光太郎は強く感じていた。
ただ、やはり武仁にはこれ以上無理をさせられない。
夏美は武仁を後ろへ下げながら応戦していたが、それを知ってか知らずか、武仁が夏美の薙刀をすり抜けて茨木童子に突っ込んでいく。
案の定押し返されたのを、光太郎が受け止めた。武仁は肩で息をしていた。
やはり辛いのだろう。

「無茶すんなよ」
「ごめんなさい、やっぱり俺…」

俯いた武仁に茨木童子が手をかざす。
と、武仁の胸のあたりからうすらぼんやりと光るものが浮かび上がった。
一瞬のうちに手の中におさまったそれを、茨木童子は真っ赤な口を開けると飲み干した。
瞬間、武仁が崩れ落ちうめき声を上げた。
夏美が駆け寄り顔を覗き込む。
瞳が昏い。まさか。

「また闇を生んでくれてありがとうなぁ、相棒」

けたけたと嘲笑う声が響き渡って耳障りだった。
光太郎がごくりと唾を飲んだ。
夏美も、背中を冷たい汗が伝っていくのを感じた。
―――呪いが解けていなかったのか?

「呪いなんてのはなぁ、解いても解いても意味がねぇんだよ」

二人の心を読むかのようなタイミングで、茨木童子はにんまりと笑った。

「言葉は受け手次第で呪いに変わる。生きている限り闇は無限に生まれるのさ」

それが本当なら―――私たちはこいつに勝てないんじゃないのか。
武仁を取り戻すことはできないんじゃないのか。
悪い考えが過ぎる。
―――いや、考えるな。奴の思い通りになんてなってたまるか。
夏美は振り払うように頭を横に振った。長い髪が乱れる。

「そして俺はそれをいただいてどんどん強くなる」

茨木童子が赤黒い義手の拳を握りしめた。ぎしりと音が鳴る。

「そいつみてぇなのは格好の餌食ってわけさ!もう逃れることなんかできねぇんだよ!可哀想になぁ!」

狂った玩具のように茨木童子は笑い続けた。

「まただ...また俺は......」

二人の足を引っ張って、迷惑をかけて。もうそんなのは嫌だって思ってるのに。
武仁は胸が潰れるようだった。
俯いたままかすかに震えるその肩に、そっと手が置かれた。
顔を上げると、光太郎はまっすぐに茨木童子を睨みつけていた。

「だから何だってんだ」

茨木童子がぎらりと睨み返す。

「てめぇらに勝ち目なんかねぇって言ってんだよ、わかんねぇのか?」
「生きてる限り闇はなくならない…そうかもしれねーよ。でも、それなら」

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