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【番外編】鏡の国のアリスが感じたのは 冷たさ? 暖かさ? ~ 心理学実験から「ミラーリング効果」について考える ~

(今回もトレーニング分野以外の文献紹介です)

さて、あなたはミラーリング効果というものをご存じでしょうか。

心理学の用語で、

好感を持っている相手の仕草や行動を自然と真似てしまう

ことを言います。

たとえば、相手がコップの水を飲んだらこちらも飲み、相手が髪をかき上げたら同じようにかき上げる。

相手が首をかしげたらこちらも首をかしげる、といった具合です。

あたかも「鏡写し」のような状態なので、「ミラーリング効果」です。

どうやら、お互いのやりとりが深まるうちに、自然と相手に合わせようという傾向が生まれるんですね。

このような状態が起きているときは、両者の間の親近感や信頼感が高まっているのだそうです。

目の前の相手と同じ行動をとるので、「同調効果」という言い方も。

このミラーリングとの具体的な関連はまだ不明ですが、最近の神経科学の研究では、ヒトを含めた霊長類や一部の鳥類の脳に備わる「ミラーニューロン」なる存在が、動物の個体同士における「共感」に深く関係している、という話もあるようです。

そんなわけでこのミラーリング効果、心理学コミュニケーション論などの分野において耳にする機会が増えてきた印象があります。

科学分野に限らず、恋愛セールステクニックの実用的な本などでも、相手との心理的距離を近付けるためのテクニックの一つとして採り上げられることもしばしば。

すなわち、相手に気に入られたかったら、その相手の何気ない仕草やふるまいを(不自然にならない程度に)マネしなさいというのです。

果たして本当でしょうか。

もし相手のしぐさをマネするだけで親密度や好感度が上がるとしたら、こんな便利な方法はありませんよね。

しかし、忘れてはならないことは、このミラーリング効果というのは、どうやら無意識的な反応、ないしは自然な動作として起こっているらしいということ。

つまり、意識的に相手の行動を「ミラーリング」したらどうなるのかについては、よく分かっていませんでした。

そして今回ご紹介するのは、まさにこの「意識的なミラーリングが相手に与える印象」について調査した論文です。

2012年の研究で、オランダのフローニンゲン大によるものです。

論文は、全部で3つの実験から成り立っています。

それでは順を追って説明しましょう。

実験1:交流態度の違い

白人女性の実験者と、集められた被験者が1対1で「課題」を実行します。
被験者は、40名の大学生です。

被験者に計10枚の写真が1枚ずづ提示され、その写っている内容について、それぞれ30秒以内で実験者に説明するという課題を実行しました。

もちろん、この課題じたいはいわば「ダミー」で、この実験が本当に確かめようとしているのは、

実験者が実験中に用いる「2種類の交流態度」に、被験者がどのような印象を抱くか

でした。

この実験を行うにあたって、実験者はあらかじめ次の2種類の「交流態度」のいずれかの態度をとることになっていました。

友好的でくだけた態度(親和的条件=affiliative condition)

丁寧だが高度に職業的な態度(職務志向的条件=task-oriented condition)

です。

分かりやすくいうと「親しげな感じ」「お堅い感じ」か、どちらかの態度で被験者に接したんですね。

それから、それらの態度の違いに加えて

被験者の非言語的なふるまいを 真似る/真似ない

かについても、同様にランダムに割り当てられました。

つまり、実験者は意図的にミラーリング(mimicking)を行ったり、行わなかったりしたということです。

ということで、実験者の態度とふるまいの組み合わせは

親しげ+マネする
親しげ+マネしない

お堅い+マネする
お堅い+マネしない

の計4通りとなり、各被験者に対してそのうちの1つが割り当てられます。
(同じ被験者で、態度やふるまいが途中で変わることはありません)

さて、これらの実験者の態度とふるまいに対し、被験者がどんな印象を抱いたがこの実験のカギです。

実験者が部屋から退出したあとで、被験者は「今の気分」(❝How I Feel Right Now❞)について尋ねられました。

それぞれの質問について、1~9点の尺度で評価するアンケートが実施されたようです。

なかでも、研究が注目したのは「冷たさ」(coldness)の感覚についてです。

これは従来の研究によって判明していることなのですが、人間、物理的な寒さや冷たさだけでなく、対人関係における寂しさ(feel lonely)や疎外感(socialy excluded)のようなものも、皮膚感覚的な「冷たさ」として感じられるということが分かっています。

どうやら、脳内でそれらを司る部位が「重なっている」ようです。

俗に「冷たい視線」などと言いますが、周囲から疎まれていると感じた人間は、本当に「寒さ」も感じているのですね。

なので、

もし被験者が「冷たさ」を感じているとすれば、実験者の態度と振る舞いが、被験者に何らかの孤独感や疎外感を与えた

と考えられます。

つまり、その組み合わせは他者への接し方として「上手くいっていない」ことが示唆されます。

さて、気になる実験結果は以下のようになりました。

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