筋力トレーニングの「新次元」到来!~トップアスリートでは常識の「VBT」とは何か〜
今日は「VBT」についてです。
Velocity Based Trainingの頭文字で、直訳すると「速度に基づくトレーニング」という意味になります。
従来の筋力トレーニングでは、基本的に「重さ」と「回数」の2変数しか操作することができません。
セット数という変数もあるにはありますが。
(ここでは、種目を変えるというのは考えないことにします)
しかし、ここに「挙上の速さ」という要素を新たにトレーニングの指標として加える、というのが今回のテーマです。
これによって、トレーニングの指標となる「変数」がもうひとつ増えます!
例えるなら、今までは「平面」という2次元の世界でしか物事を認知できなかったのが、「立体」という3次元の世界に「拡張」されたとしたらどうでしょうか。
けっこう画期的ですよね?
では、「挙上速度」が加わると実際にトレーニングの何が変わるというのか。
まず前提として、100㎏のバーベルを
①1秒で挙げるのと
②0.5秒で挙げるのでは
扱う重量は同じでも、「仕事率」が2倍違うことをおさえておきましょう。
仕事率というのは物理分野の用語ですね。
質量×距離÷時間のことですが、
筋トレではおおざっぱに「バーベルの重量×速さ」だと思ってください。
つまり、同じ重さを同じ回数挙げたとしても、速度が違えばトレーニングの質が変わります。
思い切り単純にいうと、
2倍早く挙上すれば、2倍優れたトレーニングをしたことになります。
あなたも経験ありませんか?
体の調子がとても良くて、前回と同じ重量を持っているのに、より軽く、すばやく挙がった感じがすること。
あの感覚は、単に体感としてそう感じるだけでなく、実際に「挙上速度」が上がっている可能性があります。
以前に別の記事で紹介したHPS法のDay2はパワーの日、つまり爆発的挙上を意識するという日でした。
この爆発的挙上にフォーカスした方法論が、今回のVBTです。
では、実際のトレーニングではどうすれば良いのか?
別に難しいことはありません。
最大限のスピードでバーベルを挙げる
だけ。
ただし注意して欲しいのは、「出来るだけすばやく挙上する」といっても、フォームを乱さないよう気をつけてください。
不適切なフォームはケガの元です。
特にVBTは筋肉の収縮がより急激になる分だけ、通常の挙上方法よりもケガのリスクは高いと思った方がいいです。
アップや疲労管理を、入念に行いましょう。
それに加えて、正確に速度をモニターするためにも、毎回ストリクトなフォームで行う必要があります。
インチキをしてスピードを上げても、意味がないということです。
さて、いま「正確に速度をモニターする」といいました。
ここで問題が生じます。
そもそも、挙上の速度をどうやって把握するのか?
たしかに、体感でもある程度のスピードは分かります。
速いな、遅いな、ぐらいのことは。
でも、前のセットの5レップ目と、今のセットの5レップ目がどれぐらい違うか?
こうなるともうお手上げですね。
挙上速度に着目したトレーニング方法じたいは、じつはVBT以前からも存在していました。
ただ、それを適切に把握する方法がなかったのです。
そこで開発されたのが、
バーベルの挙上速度をモニターする装置
です。
野球のスピードガンみたいなものですね。
基本的な原理を説明すると、どのガジェットも基本的には加速度計などのセンサーが内蔵されていて、バーベルや身体にくっつけて使います。
だいたいスマホやタブレットと連動するようになっていて、挙上速度をリアルタイムでモニターできるようになっています。
まず、自分もかつて使っていたのはこれ。PUSHといいます。
バーベルに巻き付いている小さい機械がそうです。
小さいですが、値段は約8万円!
けっこうお高い……しかも製造会社が別会社に買収され、現在発売終了。
他には、こんなのも。
各社だいたい機能は同じですが、アプリの使い勝手がけっこう違います。
どれも8~10万円前後はするでしょうか。
もっと高額な機材もあります。
日本だと、S&C Corporationという会社が輸入販売を行っているようです。
アフターケアなどをすっぱり割り切るなら、個人輸入するともう少し安くなると思います。
ただ、円安の昨今ですが……
書籍も出ているようなので、詳しく知りたい方はそちらを参考にしてください。
どうも、上記の機材を扱う会社は、この本の著者が起業した会社のようですね。
何というか、すごく近未来的な印象があります。
ガジェット好きな方には、かなり「刺さった」かも知れません。
では、この「VBT」を導入するメリットについて説明します。
まず、「1RM」について。
筋トレ界ではおなじみですね。
RMはRepetition Maximumの略で、訳すと最大反復、要は「何回できるか」ということです。
この場合は1回なので、ズバリMax重量ということです。
この1RM、最近のトレーニング界隈ではもう当たり前に用いられますね。
たとえば「75%1RMで8reps」なんていいますが、これはMax重量の75%で8回挙げるという意味です。
だいたい、2回の余裕を残す設定ですね。
1セットなら楽勝ですが、2セット、3セットと行うとかなりキツくなるでしょう。
さて、あなたはこの1RMをどうやって計測しますか?
基本的には以下の2つでしょう。
①実際にMaxを計測する
②複数回(3回ぐらいのことが多いです)挙がった重量から、1RMを推定する
おそらく①は少数派で、②の方が多いのではないでしょうか。
この1RM測定ですが、いくつかデメリットが指摘されています。
まず、①の場合は「疲労が大きく、ケガのリスクを伴う」です。
Max重量というのは自分にとって限界ギリギリの重さです。
挙がるか挙がらないかきわどい重量ですので、入念にアップをしたとしても、ケガをする可能性がゼロではありません。
また、全ての力を出し切るので、行うとかなり疲労します。
スティッキングポイント付近で粘ったりすると特に。
それから、②の場合は「誤差が出る」です。
世の中には1RMを推定する換算式やそれに基づく換算表というものがあって、ネット上にも結構出回っています。
これは集められたデータから統計的に導き出された式で、それなりに信頼はおけるのですが、ほぼ間違いなく誤差が生じます。
人によって推定よりも挙がったり、挙がらなかったりします。
この辺は筋肉の質や、トレーニング歴などによると思われます。
まあ、ある程度経験を積んでくるとその辺も補正できるのですが…
それから、たとえば3RMといってもけっこうな高重量なので、やはり10RMぐらいのトレーニングと比べるとケガのリスクは高いですね。
かといって、10RMからの推定ではあまりアテになりません。
そして何より、これは①と②両方に当てはまるのですが…
「1RMは、その日のコンディションによってかなり変動する」という、より根本的な問題があります。
2週間前に計測したベンチプレスの1RMが100kgだったとしても、今日のMaxが100㎏であることはまずありません。
疲労が抜けて、前日の睡眠もしっかり取れていれば105㎏ぐらい挙がってしまうかもしれませんし、逆に疲労がたまっていて、仕事などでストレスを抱えていれば、その日のMaxは95㎏かもしれません。
このコンディションの良し悪しは、上級者になるほど影響が大きくなってきます。
だから、本人は1RMの75%でトレーニングをしているつもりでも、実際そうではない場合があるのです。
とはいえ、トレーニング当日に毎回1RMを計測するとなると、それこそ本末転倒ですよね。
そこで役に立つのが、この「VBT」です。
実は、VBTで挙上速度を計測すれば、その日のアップの挙上記録から、1RMがかなりの精度で推定できてしまうんです。
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