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筋トレは 追い込む? 余力を残す? 正解はどっち⁉ ~メタ分析による「答え」を見てみよう~

「トレーニング効果は、週あたりのボリュームに比例する」というのが最近のトレーニング科学のひとまずの結論です。

つまり、たくさんトレーニングした方が効果は大きいということ。

なんというか、結論以前に

あたりまえ

ですね。
ただし問題なのは、

どういう方法でトレーニングを行えば、(週あたりの)ボリュームは最大化されるのか?

ということです。

まず考えられるのは、

➀とにかく限界までひたすらたくさんやる

という方法。

毎回のセットで、挙がらなくなるまでとことん追いこむ。

これが最も単純です。
そして当然つらい。

Youtubeなどで、トップビルダーが「追い込んでいる」動画を見ることができます。
もう、鬼気迫る。

古いものなので画質は粗いですが、7~80年代を代表するボディビルダー、トム・プラッツのスクワット動画です。

トムはものすごい大腿で有名な選手で、ついたあだ名がThe Quadfather。
あの
「ゴッドファーザー」にかけて、Quad=大腿四頭筋 の父と呼ばれていました。

そして非常にハードなトレーニングでも有名でした。
動画でも、もう挙がらなくなるギリギリまでスクワットをやっていますね。

これは、ギリギリ限界まで追い込むのだから、ボリュームは最大化されているはずという考えに基づいています。

これに対しもう一つの方法は、

➁限界の少し手前でセットを打ち切る

というものです。

意外に感じるかも知れませんが、少しだけ余力を持ってセットを終えた方が、よりボリュームが確保できるという考え方もあるのです。

なぜかというと、人間は疲労する生き物だからです。

なので、疲労がきついほどそこからの回復には時間がかかることになります。

とすると、毎回のセットでギリギリまで追い込んでしまうと、次のセット、もしくは次のトレーニングまでにより長く間隔をあけないと、回復が間に合いません

その日、そのセットではボリュームが確保できたとしても、長い目で見ると損をしているのではないか。

特に、週辺りのボリュームを考えると。

ここに、トレーニングの一筋縄ではいかない難しさがあります。

たとえば、上記のトム・プラッツなどは、一回の脚トレでとことんまで追い込むので、次の脚トレは3週間後!になるのだとか。

もはや、疲労というよりはちょっとした怪我のレベルですね。

さすがに3週間というのは極端ですが、いわゆる「追い込む」系のトレーニングですと、各部位ごとに週1回というパターンが多いように感じます。

たとえば胸・肩・背中・腕・脚と各1日ずつトレーニングを実施し、どこかに2日のオフを挟むようなパターンでしょうか。

これに対し、「余力を残す」やり方だと週2日、部位によっては週3日トレーニングを行うこともできます。

この場合、たとえば上半身・下半身・上半身・下半身という、ややざっくりした分割が一般的でしょう。

追い込まないので1日のボリュームは減るのですが、同一部位を複数日行うため、週あたりのボリュームはむしろ確保しやすいという考え方です。

ということで、どうやら筋トレ界には方法論上の2大潮流があるといえそうです。

ちなみに、
ボディビル系の選手には「追い込む」系が人気で、
リフター系の選手には「余力を残す」系が人気、といった印象もありますね。

またこの話題に関連して、

全身法と分割法ではどちらが有利か?


という問題もあります。
これについては、以前の記事をご参照ください。

さて、今回とりあげる話題は

「追い込む」のと「余力を残す」のではどちらが有利か?


です。この問題を扱ったメタ分析の研究がありましたので、その紹介と考察が本記事のおもな内容です。

2024年7月アメリカフロリダ・アトランティック大学による研究です。

論文タイトルの
Dose-Response Relationship
 
というのが「用量反応関係」のことで、

かんたんにいうと「二つの要素どうしの関係」のことです。
単純な例では「Aが増えるとBも増える」みたいなことですね。

今回の研究では、

Resistance Training Proximity to Failure

Strength Gain、Muscle Hypertrophy

との関係を見ています。

それぞれ

レジスタンス(筋力)トレーニングの失敗(もう挙がらなくなる)までの近さ

筋力向上・筋肥大

との関係ですね。

つまり、「筋トレでの「追い込み」の度合いと、筋力向上・筋肥大との関係」を調べた研究です。

いわゆるメタ分析なので、エビデンスのレベルは比較的高いです。
むろん過信は禁物ですが。

さて、この研究では全部で55の研究からデータを抽出しています。

全データの平均値でいうと、

実験期間 :8.28±2.35週 (±の後は標準偏差、以下同じ)
被験者年齢:27.84±12.84歳 

で、

おもに筋力強化について調べた実験では

1セッションあたりのセット数 :9.58±4.48セット
トレーニング負荷      :72.06±13.27%1RM

おもに筋肥大について調べた実験では

1セッションあたりのセット数 :9.69±4.61セット
トレーニング負荷      :72.27±14.53%1RM

となっています。

筋力強化と筋肥大とで数値があまり変わらないのが興味深いですね。

ざっくりいうと、どちらも
10±5セット
70±15%1RM

あたりの負荷とボリュームが用いられているようです。

この研究では、基本的に

追い込む = もう挙がらなくなる(Failure)まで行う と定義しています。
追い込む = 潰れる と言い換えてもいいでしょう。

また、余力を残すことについては「RIR」という指標を用いています。

Repetitions In Reserveの略で、直訳すると「くり返す余裕」です。

潰れる        =RIR 0
1回挙上する余裕がある  =RIR 1
2回余裕がある              =RIR 2

といった具合で余力を数値化します。
似た概念に「RPE」というのもありますね。

例えば1RMの80%で8回挙上のセットですと、

(一般的には10回挙がる重量とされているので)
本研究ではRIR=2と換算されるようです。

さて、それでは気になる結果はどうでしょうか。

筋力向上編

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