『トマスによる福音書』⑩~⑫


イエスが言った。
「この空もね、いつかは去っていくんだよ。
その空の上もまたそう。人だってそうさ。
死ぬときは死ぬし、生きるときは生きる。
それでいいじゃないか。それがいのちというものだよ。
それなのに君たちときたら、死ぬと分かるとずっとそれに悩まされつづけてばかりだ。
いのちの光に満たされていればそんな悩むことないのに。生と死は本来ひとつだよ。
どうして君たちは自分をふたつに割ってしまうんだい。
ふたつに割れてしまったところから、すべての悩みは生じるんだよ。」



弟子たちがイエスにこう言った。
「私たちは、あなたがいつか私たちを置いて去っていくであろうことを知っています。
そうしたら誰が私たちを導いてくれるというのでしょうか。」
イエスは言った。
「君たちが本来いた場所に行けばいいだけの話さ。義人ヤコブのところだよ。
聞くところによると彼のせいで天と地が分かれたそうじゃないか。」


イエスが弟子たちに言った。
「たとえるなら俺ってどんなやつかな?」
シモン・ペテロが言った。
「まさに神の教えを遣わさった方といったところですかね。」
マタイが言った。
「賢い哲学者って感じがします。」
トマスが言った。
「とてもじゃないけど言えないです。」
イエスはトマスに向かって言った。
「なるほど。お前は俺の言いたいことをちゃんと理解しているね。」
イエスはトマスを連れていき、3つの言葉を言ったという。
さて、トマスがほかの弟子たちのところへ戻ると、みんな気になって尋ねた。
「イエスは何て?」
トマスは言った。
「言ったら、たぶんみんな石を投げつけたくなるほど怒ると思う。だから言えないよ。」
「えー・・・。」

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