『トマスによる福音書』⑬~⑮


イエスが弟子たちに言った。

「あのさ、何でもかんでも断食すればそれで信仰が深まると思ったら大間違いだよ。祈るにしてもそうだし、人に施しをするにしてもそう。
わざわざ自分からやったって、本当にそれが尊いこととは限らないんだからね。
そうじゃなくてさ。

たとえば普通にどっか出かけたときとかさ。
旅先でおもてなしを受けたら「断食中なんで…」とか言ってないで有り難くいただくとかね。
そこで病気で困っている人がいたら、祈ってないで介抱してやるとか。
そういうことをやってほしいわけ。

要するに他人からの求めに応じることの方がずっとずっと尊いってこと。
自分がやりたいことは何でも尊い行為だって決めつけるなんてこと自体、姑息な手段だなと思うわけさ。」


イエスが言った。
「人間として産まれた存在とはまたちょっと違う、『真実の存在』みたいなものがある。もしそれを見つけたらひれ伏して拝んでほしい。君たち人間の父親みたいなものだから。」


イエスは言った。
「みんな俺のこと、この世に平和をもたらすためにやってきたと思ってるらしいけど、どっちかっていうとむしろみんなバラバラになっちゃえとか思ってたりする。
燃えたぎるような、そんなサシの戦いが見たかったりするんだ。
みんな知らないんだよな。
一家そろって仲良くしたってだいたいケンカは起きるし。
徒党を組んだり上下関係できちゃうから、かえって訳のわからん対立になるわけで。
だったら初めからみんなひとりぼっちだったと思えばいいだけの話じゃん。」

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