こうしてる今も

あのころ、

あのくだらない赤い車に乗り、

くだらないコーヒー屋のコーヒーをホルダーに置き、

音楽を聴きながら悦にいっていたころ。

わたしは健康で身軽で独り身だった。

明るくてバカで陽気で愚かなわたしにぴったりの車だった。

重くていちいち金がかかって小回りがきかなくてとにかくパワーのある車だった。

エンジンをかけるとウウンという低いうなり声とともに車体がわずかに沈みこみ、地面にへばりつく。

わたしはその感覚がすごく好きだった。

5月の、初夏の明るい木漏れ日を浴びながら

(あの車にはなんとサンルーフ、ムーンルーフたるものがついていてだ、開けて走れば空の明かりを直接感じることができた)

無駄という贅沢を享受しまくっていた。

無駄という甘美なもの

無駄じゃなければ意味がない

必要以上に高額でなければ意味がない

必要なものではぜんぜんなかった

そのわけのわからない車に乗りながら好きなもののことを考えたりした

好きな音楽もいっぱいあった

チケットを手に入れたライブのスケジュールも詰まってた

こうしてる今もたまに思いだす、

愚かなる日々のことを

愚かだが、これ以上楽しいこともまたない日々だった

あのころ遊んでくれたひとたちありがとう

もう会わないだろうけど

忘れないしまたいつか愚かなるわたしがもどってきた際には遊んでくださいどうかぜひ


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