くだらない夢
もう帰ろう
と彼の細い腕をとった感覚がやけにはっきりと残っている
手首のいちばん細いあたりを掴んだ
ひどく痩せた彼の腕と温かくも冷たくもない体温
たぶん同じくらいの体温なのだろう
その手を引いて部屋を出た
彼は素直についてきて
ロッカーらしきところで帰り支度をした
するとなかなか帰らずにいた女の子ふたりもバタバタとやってきて帰り支度をはじめて、
「やっぱ女って苦手だわ。」
うんざりした、もはや呆れたような苦々しい顔でうしろの女たちに彼は言った。
わたしも全くの同感だった
でも色々あとがめんどうなので黙っていた
本人が言う分には角は立つまい
「おまえ、きょう俺の車に乗って帰るだろ」
うしろの女たちは悔しがるだろう
でも悔しがることはない、まったく
ただほんとうに家まで送ってくれるだけなのだから
仲のいい男友達よろしく
それだけなのをわたしは知っている
だからぜんぜん喜ばないで むしろがっかりしてうん、とだけ答える(なにを期待したのだろ)
次から次へと寝ては乗り換えられる他の女の子たちよりはずっとマシだが
彼のそばにいられるのは面倒がないように細心の注意をして気をつけているからで
目の前にご馳走や好物があるのにずっと手が出せない エンドレス「待て」の状態もかなりつらかったりして
ただ日々、その仕草や声や、どこかを見つめる横顔なんかに胸をジュウジュウ焦がしては心の中で身悶えしている
そんなことおくびにも出さずに
ただ気があうからたまたまこうしているんだと言うふうなかおをして、
でもいまはこうしているしかない
うちでひとりの時にはGOGO7188の恋の歌ばっかり聴いてしまう
山田詠美の小説にもこーゆう場面あったなとか
今はってか、これから先も何にも変わらないけれど
環境が変わって、会わなくなるまで
わたしはほかに好きな人を作ることもできずに
行き止まりの、袋小路に嵌ったまま
このまま気のいい友人で居続けるのだろう
いつまでこうしていられるのだろう
きっといつか彼は恋に落ちる
あの、小説の女の子のように、目の前でそれが起こらないといいな
わたしたちが生活を別にしてからがいいな
学校で連れ立って歩く相手でさえ、女のわたしを選ぶような甘ったれで傲慢で自分勝手な彼を
だからわたしは早く卒業がくるのを待ってもいる
この膠着状態が終わるのを
目の前にいられちゃ、いつまでたっても好きでいるのをやめられない
惹きつけられてしまう
だからといって、ほんとうの気持ちを告白してさよならして彼の元を去るような、こともできないでいる
そのあとの生活を思うと地獄だから
なんにしても彼の友人として、お互い、学校生活をつくりあげてしまっていて
周りとのバランスもそれ込みでできてしまっているから