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イノベーションの作法

先日、「個人投資家が選ぶ!Fund of the Year2024」アクティブ部門で、鎌倉投信が運用する投資信託「結い 2101」が第1位に選ばれました。足下の運用環境は「結い 2101」にとっては厳しく、運用成果は良好といえない中で、多くの個人投資家にご支持いただき、本当にありがとうございました。それと同時に、これからも投資家の皆様の期待に応えていかなくてはならないと、身が引き締まる思いでいます。

また、資産形成に取り組む個人投資家の輪を広げるこのような活動に地道に取り組んでおられる企画・運営の皆様に、心から感謝いたします。

投票いただいた投資家から寄せられたメッセージ(期待)は、主に以下のような内容でした。簡単に紹介します。

  • ぶれない鎌倉投信の経営理念や「結い 2101」の投資姿勢への共感

  • 分かりやすく透明性の高い情報発信

  • 「受益者総会®」など、投資先企業との対話の「場」を通じた学びの機会

  • 鎌倉投信の投資姿勢から「いい会社」への敬意を感じること

  • 投資を通じ、社会とのつながりが実感できること

  • 安定した運用パフォーマンス

こうした価値をさらに実感いただけるよう、これからも運用する力、投資する「いい会社」やお客様との対話に磨きをかけていきます。


1.  運用会社としての鎌倉投信の個性(ユニークさ)

2010年3月に「結い 2101」の運用を開始してから間もなく15年になります。この間、私の中で描き続けている想いがあります。それは、鎌倉投信を立ち上げた理由、すなわち、鎌倉投信の志(経営理念)で謳っていることでもあり、投資哲学「投資はまごころであり 金融とはまごことの循環である」に通じるものです。

それは、
① 日本や世界が抱える社会課題を解決したり、会社に関る全ての人の幸福を追求する「いい会社」をふやし、発展成長を支援する投資の循環を、鎌倉投信という枠を超えて多くの人と共に広げていくこと。
② そのために、投資家や投資先企業の皆様に、こころを込めて接すること。投資家と「結い 2101」、さらには投資先企業が信頼に根ざした投資でつながる「場」を生み、こころ豊かに成長する投資のあり方を感じてもらうこと。
③ 投資家の資産形成と社会の持続的発展に貢献すること。
です。

他の運用会社にはない鎌倉投信の一番の個性(ユニークさ)を挙げるとするならば、こうした「世界観」を大切にしていることかもしれません。ここでいう世界観とは、運用商品である「結い 2101」や鎌倉投信の事業、それを担う人や組織の中に、鎌倉投信が実現したい想い(鎌倉投信の「志」)を宿すことをいいます。業態を問わず、今の時代、社会や未来への想いのない事業や商品に広がりが生まれることはないと感じています。

2. 野中郁次郎先生との思い出

このような想いで「結い 2101」の運用を開始してしばらく経ったころ、先日お亡くなりになったイノベーション研究の第一人者「野中郁次郎先生」が来社されました。企業のあり方、イノベーションを生む組織や経営者といったテーマでお話を伺った時間は、とても貴重で、今でも印象深く記憶に残っています。

持続的な知の創造、すなわちイノベーションを起こす組織になるためには、集合知を組織に染み込ませることが重要であること、そして、それを実践するための組織行動を体系化した「SECI(セキ)モデル」の話を伺い、とても共感したことを覚えています。

野中先生が提唱した有名な「SECIモデル」とは、
① 市場を形成する顧客の暗黙知を共有し(Socialization=共同化):
② 組織の境界を超えた対話を通じてその暗黙知を言語化し(Externalization=表出化)
③ 情報通信技術を活用して時空間を超えて体系化し(Combination=連結化)
④ 商品やサービスに結晶化し、組織のノウハウとして内製化する(Internalization=内面化)と同時に、市場の顧客の新たな知を触発し、再び共同化につなげる。
この知を「綜合」させる一連のプロセスが、イノベーションを生み出すというものです。

この「綜合」とは、色々な事柄を一つにまとめるという意味合いではありません。暗黙知(身体に埋め込まれた知)と形式知(理性的な知)を融合させて、一見対立しているように見える異なるものをより高い次元で止揚(アウフーベン)し、あたかも螺旋階段を登るように一つ上の次元に高めていくことをいいます。今では比較的目にするようになった弁証法的な視点ですが、当時は、とても新鮮で、今ではそれがあちらこちらで起きていると感じます。

3. 新イノベーターの条件

その後に読んだ野中先生の著書「イノベーションの作法」(野中郁次郎、勝見明 著、日経ビジネス文庫)の中では、イノベーションを生むイノベーターの条件について、以下の記述は強く心に響いています。

新イノベーターの条件①
不屈の信念を持って自らの信ずる真(何がよいかという暗黙知)・善(社会にとって普遍性をもった善)・美の理想を追求、その目指すべきビジョンといかなる状況にあっても実現する的確かつ柔軟な手段を持つこと。

新イノベーターの条件②
「場」づくりの能力。他者と文脈(コンテクスト)を共有して共感を醸成していく能力を持つ。すなわち、人々の共感を呼ぶ文脈を生み出し、共有していく組織の壁や境界を越えた場を生みだす力を持つこと。

新イノベーターの条件③
理論を超えた主観の力を取り戻し、勝負師の勘を持つ。未来創造戦略と競争戦略は異なる。未来創造戦略とは、競争戦略との比較優位に基づく相対価値ではなく、自分たちの価値観、自らが信じる真・善・美に基づいた絶対価値を追求する。そこにあるのは、傍観者の視点ではなく、強い当事者意識を駆り立てる極めて主観的な想いである。
「自分は何をやりたいのか」「何のために存在しているのか」を問い続け、自らの主観的な想いを原点に置き、言語化し、概念化して他者を巻き込み、イノベーションを起こしていく。

イノベーションを遂行する組織体というのは、トップはもちろん、ミドルのリーダーまで、「世のため、人のため、こういう価値を創っていこう、何が社会にとって善いことであるかという共通善(Common Good)を提供していこう」という想い、哲学を提案していくものである。そのためには、自らの「生き方」を確立せよ。自分は何のために生き、仕事をするのか、その生き方を確立した人間のみがイノベーションを起こせる。

実に深い問です。鎌倉投信はまだまだ未熟な運用会社ですが、イノベーションを起こす人や組織に通ずる、このような要素を潜在的に持ち合わせているように感じています。これから、それを喚起できるよう頑張っていきます。

野中郁次郎先生のご冥福を祈り、感謝の心を天に届けます。


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