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地方創生の視点

先日、何人かの経営者仲間と私の郷里 島根県を訪問しました。訪問先の一つは、長細い県の中心部に位置し、世界遺産に登録される石見銀山がある大田市大森町でした。僕の実家から車で5分ほどのところにある人口500人の大森町は、昔ながらの落ち着いた景観が維持され、その土地の文化や風土が今もしっかりと息づいています。

地元の人の温かさも相まって、一度この町に来ると多くの人がファンになります。私が連れて行く友人・知人、今回同行した経営者仲間もしかりです。落ち着きのある町の雰囲気や今まで経験したことのない宿のおもてなしに感動し、「次回は、家族や友人と来たい」と誰もが口にするのです。そのため、近年、移住者や子供もふえて、小さな町の中にも活気を感じるようになりました。

今回のnoteは、仕事柄、いろいろな地方・地域と関わる中で感じる「地方創生の視点」について書いてみました。


1. 島根県大森町からの学び

独特の雰囲気を持つ大森町は、海外からの注目度も高く、長期滞在する外国人もしばしば訪れるようです。また、普段都会で暮らしている親子が、数週間、自然豊かな地方の保育園に子供を通わせ、親はその近くでリモートワークをしながら田舎暮らしを体験する「保育園留学」でも人気スポットです。

保育園留学とは、鎌倉投信が運営するスタートアップ支援のファンド「創発の莟(つぼみ)」(私募型の有限責任投資事業組合)から投資する「(株)キッチハイク」(本社 東京都台東区)が提供する地域創生事業の一つです。私たちが訪問した時には、シンガポールに住む外国人親子が保育園留学を利用し、数週間滞在していました。このように、大森町の関係人口は、国内に留まらず海外にも広がりを見せているのです。

地方には、都会にはない自然や風土、人と人との豊かな関係があります。大森町には、こうした豊かな自然資本や文化資本、人間関係資本を活かした、小さな町なりの生き方、持続的に発展する独自の地域創生のモデルが確かにあります。

その原動力は、この町に暮らす人自らが、この町を愛し、この町の魅力を作り出し、その魅力を起点に経済を発展させ、暮らしを維持しようと努力する姿にあると感じています。

2. 地方創生に欠かせない社会創発力

地方創生といえば、石破首相が政治生命を賭けた政策であり、今回の自民党の公約の中でも目玉政策の一つとして掲げられていました。しかし、地方交付金を倍増する、地方創生の新たな部署を設置するといった方法で、はたして状況は変わるでしょうか。お金のばらまきや交付金頼りの地域からは、社会や経済の持続性を高めることは難しいでしょう。

地方創生、逆から観ると地方経済の衰退の根本命題は、戦後、大都市圏を中心に作り上げてきた日本の経済構造、それによって生じた社会構造の歪、その根本をいかに転換、または緩和させるかにあると考えるからです。

地方創生には、人口減少を克服し、かつてのように元気な地方を取り戻すという発想、補助金や助成金を使って単なる創業支援・事業承継支援という発想から、地域に関わる様々なプレーヤー同士が力を合わせ、その相互作用によって新たな社会システム、独自の地域文化、新たな経済圏を生み出す「社会創発力」が求められると感じています。その一つが、地域の枠を超えた人、企業、技術の融合でしょう。

3. 地域の枠を超えた人、企業、技術の融合

地域創生には、地方発のスタートアップや地元企業の事業承継支援が不可欠です。それを支援する枠組みとして、多くの地域金融機関が個々にファンドを組成して投資をしたり、地方自治体も様々な支援活動に取り組んだりしています。

しかし、そこでの課題は、一言でいうと自前主義、地元思考に陥ることでしょう。地方の問題をその地域で解決することには限界があります。敢えて、地域外の人や企業、地元にはない技術やノウハウを持ち寄り、いかに融合させるかがポイントになると考えます。さらには、この地域から日本を変える、くらいの志があると力が湧いてきます。

一方で、資金力のある広域金融機関が組成する地方創生ファンドは、対象となる事業の成長規模や成長速度に見合わない投資の金額やリターンを求める傾向にあります。IPOを目指せる地方発スタートアップが限られる中で、一定の事業成長を生み出すためには、地域発で他の地域に横展開できる事業モデル、技術やサイエンスを成長基盤にして日本全域もしくは世界にスケールアップさせる発想が欠かせません。それを伴奏・支援できる投資家や金融機関が少ないことも克服すべき課題の一つといえるでしょう。

それとは異なり、先の大森町のように、人口減少にあらがうことなく、一定の規模感で暮らしやすい豊かな経済圏・文化圏を作ることも一つの生き方かもしれません。

4. 公助と共助を融合させた地方自治のあり方

人口減少、高齢化が進む地方の社会課題は、政府や地方自治体が全て面倒を見る公助の仕組みでは限界があります。かつての日本の社会に見られたように、互いが助け合い、協力し合う、(今の時代に合わせた)共助の仕組みと公助とを融合させることが必要不可欠でしょう。取り分け、財源の少ない地方自治体においては、ソーシャル・スタートアップやNPOなどと戦略的に連携し、新たな地方自治のあり方を模索する必要があると感じています。

その時に、(地方自治体の職員不足も進む中で)自治体組織内、地域住民やソーシャル・セクターに関わる組織などとの連携において、デジタル化の推進は、地方自治の効率性と効果を高める上で、もはや必要不可欠な社会インフラといえるでしょう。とりわけ災害時には、それが強く求められます。

デジタル化は、自治体内、住民との連携に留まらず、地場産業の支援などの産業振興の観点からも重要だと感じています。例えば、タオルや漆器などのように製造工程が細分化された地場産業においては、関連する会社が個々にデジタル化(業務の効率化)を推進するよりも、関連企業丸ごとデジタル化を推進した方が、はるかに生産性、収益性は高まります。

この点においてデジタルに関する首長のセンスも問われます。首長のセンスによって、行政区毎の格差が生じることのないよう、デジタル化の先端的な取り組みを各自治体がどんどん共有して横展開することが重要だと感じています。

鎌倉投信は、地域を元気にしたいという想いから、公募型の投資信託「結い 2101」を通じて、地方に根を張り、地方の雇用を創出する「いい会社」や、地方と関係の深い第一次産業に関わる「いい会社」にも意識して投資しています。

また、社会の仕組みを変える「社会創発」をテーマにしたスタートアップ支援のファンド「創発の莟」からは、地方との関係人口をふやす観光事業、人手不足の問題を解決する製造業支援や介護支援、地域発でグローバル展開を目指すスタートアップなどに投資をし、支援しています。

これからも、こうした取り組みを通じて、地方を含めた日本を元気にできるように頑張っていきます。


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