人生はよき言葉によって導かれる
今年のノーベル平和賞に日本被団協(日本原水爆被害者団体協議会)の受賞が決まった。受賞が決まった時の映像から、関係者が核廃絶を諦めることなく、少しでもその実現に近づこうと、草の根の活動を直向に続けてこられた姿が伝わってきて心が熱くなった。それと同時に、人類の叡智が試される究極のテーマ「争いなき世界平和」の実現のために、地球の住人の一人として何ができるのだろうか。そんな想いも頭をよぎった。
僕の周りには、世界の紛争や貧困で苦しむ人を少しでもなくそうと活動する知人・友人が何人もいる。鎌倉投信がスポンサーとなって世の中の「いい」を探求するラジオ/Podcast番組 鎌倉エフエム「Finding the GOOD(以下、FTG)」で先月紹介したテラ・ルネッサンス(認定NPO法人 本部:京都府京都市)の創設者 鬼丸昌也さんもその一人だ。今回のnoteでは、壮大で困難な挑戦に挑む鬼丸さんからの学びを書いてみたい。
1. テラ・ルネッサンスについて
テラ・ルネッサンスについては、折に触れて紹介していますので、鎌倉投信のお客様の中には知る人は多いでしょう。テラ・ルネッサンスは、カンボジアやラオスなどでの地雷の除去活動、ウガンダやコンゴなどで長年にわたる内戦で苦しみを受けた元子ども兵士の社会復帰のための自立支援などをおこなっている認定NPO法人です。
現在、ロシアとウクライナ、イスラエルとパレスチナといった日々報道される戦争は誰もが知るところですが、その他にも今、世界中で50以上の武力紛争が起きていて、その中で、18歳以下の子ども兵士が20万人~30万人いると推計されています。こうした現状を少しでも変え、平和な世界をつくろうと立ち上がった団体がテラ・ルネッサンスです。
2001年10月、鬼丸さんが立命館大学4年生のときに設立した団体の活動は、23年が経った今、最近ではウクライナ支援を含めて世界9カ国にまで活動の範囲が広がりました。当時の名もなき学生の小さな一歩が、今振り返れば、いかに大きかったかがわかります。鬼丸さんの一歩があったからこそ、僕の気持ちばかりの寄付金も世界の平和に少しでも役に立っていると思うとありがたい限りです。
2. 人生はよき言葉によって導かれる
テラ・ルネッサンスの取組みもそうですが、あらゆる社会変革やあらゆる事業は、元をたどれば、すべて「たった一人の想い」から始まります。そして、その想いは、しばしば、心に深くささる言葉との出逢いによって発露することが少なくないでしょう。
鬼丸さんでいえば、高校3年生の時にスタディーツアーで訪れたスリランカでの「サルボダヤ運動(村おこしの全国的な活動)」の指導者 A・T・アリヤラトネ博士の一言でしょう。
スタディーツアーの最終日、博士は、鬼丸さんにこう尋ねたといいます。
「君は世界を変えたいと思っているか」、と。
「はい」と答えた鬼丸さんに、博士は、「では、世界を変える秘訣を教えよう。」と、このように話を続けます。
「世界を変えるには、特別な知識や経験は一切持たなくていい。お金持ちである必要もない。ただ次の言葉だけ覚えておきなさい。『すべての人に未来をつくる力がある。今の環境、今の境遇、今の状況がどんな状態であっても、人には、その人とその人の住む地域の未来をつくる力がある』ということを。一番大切なことは、君がそれを信じることができるかどうかだ。」(番組FTGでの鬼丸さんの言葉を要約)
この言葉は、後に、テラ・ルネッサンスの活動理念そのものになり、鬼丸さんの人生観の土台なっているようにも感じます。
人生でたった一度しか会わない人は数多くいます。しかし、逢った時に受け取った言葉が、時として、心の中に生き続け、人生を決定づける宝物になることもあるでしょう。そんな言葉にたくさん出逢いたいものです。
3. 純粋な好奇心がよき出逢いを運んでくる
では、どうすれば、このような人生を決定づける言葉に巡り合うことができるのでしょうか。
鬼丸さんが番組FTGの中で話をしていた興味深い一言からその答えが見えてきます。
その一言とは、
「使命感や正義感は永続的な原動力にならない」です。
会社経営においても、よくミッションという言葉の中に会社が果たすべき社会的使命という意味を込めたり、自らの正義を「あるべき姿」として表現する会社は少なくありませんので、一瞬ハッとさせられました。使命、正義という言葉の中には、どことなく真に腹落ちしていない自分を納得させようとするもう一人の自分がいるように感じるからです。
ただ、番組で語った鬼丸さんの言葉の真意は、それとは少しニュアンスが違い、「互いの使命感と正義感でぶつかり合うと争いになる。」というものでした。確かに、(会社の中も含めて)全ての人間同士の争いは、互いの正しさ、尺度の違う異なる物差し(見方)で自分の正当性を主張するところから始まるものです。
では、鬼丸さんが考える「永続的な原動力」とは何なのでしょうか。
答えは、「好奇心」です。「好奇心こそが永続的な原動力である」、が鬼丸さんの答えです。
誰もが達し得たことのない世界平和を成し遂げようという好奇心、全ての人が幸福な平和な状態を見てみたいという純粋な好奇心こそが物事を成し遂げていく力、遠い未来、遠い目標に一歩でも近づく原動力になるというのです。そこには対立するものがなく、万人が共感する世界があるからこそ、永続する力になり得る、と受け止めました。
そして、何より、その「純粋な好奇心」、「動機の純粋さ」こそがよい出逢いを生み、人生を変える言葉との出逢いにつながると感じるのです。
4. 目の前の一つひとつを大切にすることが目的地にたどり着く唯一の道
最近、上場会社が統合レポートなどで謳っているマテリアリティ(会社が取り組むべき最重要な社会課題)も同じですが、自分の手では届きようのない遥か遠くの目的や課題、例えば、世界平和の実現という稀有壮大な目的達成への道のりを考えた時、気が遠くなってどこから手をつけていいのかわからなくなるものです。
達成したい目的がいかに壮大であろうとも、そこに近づく方法はただ一つです。
「目の前の一つひとつを積み上げていくこと」です。それが、世界平和というスーパーゴールに近づく唯一の道だと鬼丸さんは言います。
そして、もう一つ大事なことは、途上国で起きている問題の多くは、先進国で暮らす私たちの生活や、地球全体の構造が生み出している課題なので、豊かな国に暮らしている人たちの意識や仕組みを変えない限り、いくら支援しても本質的によくなることはありません。
それだけに、まずは、日本の遠く離れた地域で起きている戦争も、地球環境という問題も、自分とは決して無関係ではないという当事者意識を持つことが出発点です。
自分の小さな行動は、微力かもしれないが決して無力ではありません。当事者意識をもって、目の前の一つひとつを大切にすることが、遠い目的地にたどり着く唯一の道なのです。
5. 多くの人と共に歩むこと、そのためには、自分が幸せであること
直面する社会の課題を解決するためには、自分ひとり、わが社、わが団体だけで解決するものは一つもありません。それだけに、多くの人と共に歩むこと、テラ・ルネッサンスでいえば、寄付をしてくれる人や支援者をふやす、鎌倉投信でいえば、受益者や「いい会社」をふやし、その相互の共感性と信頼感を高めることが、壮大な目的達成に向けた力になります。
ここで、共感の輪を広げるために一番重要なことがあります。それは、何より「自分自身が幸せであること」です。自分が幸せでないと人を幸せにできないからです。自分が幸せでないと人を支える力にはならないからです。
そう考えた時、一つの真理が観えてきます。突き詰めれば、今ある自分のありがたさ、天から授かった自分の命への感謝、その連鎖こそが世界平和の根源といえるのかもしれません。
今回のnoteは、番組FTGを聴きながら鬼丸さんの言葉からの学びを書いてみました。
皆さんも、是非、FTG聴いてみてください。
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