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地元のエロ本自販機

高校生の時分、僕は家の隠し本棚いっぱいにエロ本を隠していた。
自慢げにそれを見せた際に「エロ本図書館」というありがたいあだ名をもらったこともある。そんな僕とエロ本の出会いの物語だ。

僕が小学校時代を暮らしたのは「京王堀之内」という京王線ユーザーであってもあまり馴染みのないであろう場所だった。
いわゆる多摩ニュータウン、スタジオジブリの名作『平成たぬき合戦ぽんぽこ』の舞台になっていたことで知られている。
駅を出て南の丘を登っていくとコンビニすらなく、整理された住宅地。駅を降って北へ行くと個人経営のコンビニが一軒、ファミマが二軒ある程度。
今でこそドン・キホーテ、ブックオフ、ハードオフ、天下一品が立ち並び、個人的には非常に住みやすい場所となっているが以前はコンビニ以外にはくるまやラーメンとスーパーダイクマくらいしかなく、思春期の少年がエロ本を買うことは非常に困難であった。

そんな京王堀之内から、中央線豊田につながる町田平山八王子線を北上すると怪しげな掘建小屋がある。
果たしていつできたかは定かではない。しかし、10代前半の少年たちにとって非常に気になる存在だった。
その小屋の名前は「こっそり堂」。

いわゆるエロ本の自販機で、僕が中学生だった25年前には間違いなく存在していた。
東京と言えど周りには普通に牛を飼っている農家があり、窓開けて車を走らせると牛糞の匂いで顔を顰めてしまうような辺鄙な場所。
そこに忽然と輝く成人男性のオアシス。
医者だった母親の学術書か父親が買ってくる週刊誌のグラビアしか見たことがなかった僕は、その存在を知った瞬間から居てもたってもいられなくなった。

いてもたってもいられなくなった頃の僕


とりあえず財布にあったお札を握りしめて深夜に家を抜け出した。
我が家はマンションの一階だったので、出入りは容易だった。緑と調和しひっそり静まり返った住宅街、その中をママチャリに乗って進む。夏だっただろうか、じっとりと汗が滲む。

駅の北口に一瞬現れるネオンや看板を横目に、一心不乱にペダルを踏む。
ライトアップなどはされていないが、中の煌々とした灯りが牛糞の匂いのするずっしりとした闇の中で怪しげに滲み出している。

初入店。
そこはまさに天国のようだった。
コンビニでは見たことのないようなヒラ綴じのもの、マニアックなもの、さらにアダルトグッズから使用済みの下着。
夜ではあるがプレハブ小屋の中は草生きれを感じるような季節。

いつ誰がくるかわからない不安とそれを超える興奮。
頭に血が上った僕は、おもむろに使用済み下着の自販機に千円札を入れる。
コトンッと音を立ててケース入りのそれが落ちてきた。恐る恐る開けると、そこには見慣れた母親のものとは違うピンクの小さい布切れのような下着が入っていた。
とりあえずそれをポケットに突っ込み、また千円札を使って素人もののエロ本を購入する。
出てきたのはいわゆる「熟女もの」。呆然とした。
元々現世から乖離したような空間で、僕は圧倒的な怒りと困惑を抱えた。
が、すぐに正気に戻りとりあえず中を見る。
だめだ、全く興味が湧かない。
仕方なく、もう千円を使って違う素人ものを購入。
あまり長い時間滞在するのもよくない、と無駄に江戸っ子のような気持ちになり戦利品ともガラクタともつかないそれらをリュックに詰め込んで帰宅した。
帰宅する途中で既に頭が冷え「誰が履いてたかもわからん使用済み下着持っててどうすんだ」と思いそれを捨ててしまった。

その後、ブックオフで購入したものやドン・キホーテで購入したものによってエロ本図書館を創設。その間に父親に二次元もののエロ本が見つかり母親の知り合いの心療内科に行かされたのも今となってはいい思い出だ。

そんな昭和の遺物であり僕の青春のエロ本自販機、実はまだそこに存在している。
先日「そういえばあそこ流石に無くなったよなー」と軽い気持ちで散歩しにいったら普通にあった。

えっ?!1000えん!!

中を覗くと当時とさほど変わらない姿。備え付けのゴミ箱の中にはパッケージやケースが捨てられており、いまだに現役であることを主張していた。


陽炎型

気づけば僕も自販機の中に並ぶ「熟女もの」の女優たちに追いつく年齢になった。しかし、あの時感じた非日常の片鱗はまだそこにあった。



もし、京王堀之内に行くようなことがある場合にはぜひ「こっそり堂」に足を運んでほしい。
忘れてしまった何かを見つけることができるかもしれない。

「こっそり堂」京王堀之内店

https://goo.gl/maps/r2VKevcLR3MZaSUr7

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