テレワーク
テレワークという、非常に都合の良い口実ができてしまったので、在宅で仕事をすることにした。することにした、とは言っても明日からだ。
今僕はタクシーに乗っている。剥き出しの会社の作業用PCを隣に載せて。
僕の家は4年前に彼女と別れだ後、一人で暮らすために選んだ部屋だ。
駅から徒歩1分、ワンフロア二部屋のその部屋に住んでもう4年目になる。
一人で暮らすと決めた部屋だったけれど、2年目にはすでに女の子と住んでいた。
まあそんなあの子も今年の2月頭には出て行って、僕は1人になった。
思えば、僕らはあの部屋でいつも2人ぼっちだった。あまり友達のいないその子を気遣い僕はあまり部屋に友人を入れなかった。
同棲をしている部屋が汚いと言うことは僕の彼女が片付けのできない人間だと公表するようで嫌だった。
2人だけの部屋は、少しずつお互いの澱や埃を溜め込み息をするのが辛くなる。笑い合っていたお互いの癖をなんとなく許せなくなる。
僕らはそんなことに目をつぶり、息を潜め、耳を塞ぎながら毎日少しずつ深海に潜るかのように暮らしていた。
「愛してるよ」
と言う言葉だけを息継ぎにして、どうにかこうにか日々を生きていた。最後には僕はあの子の顔を深海の奥底に沈めて、そして2人の生活を殺した。いなくなったあの子の残したものを見ると、胸は痛まないが息をし辛くなる。
自分が選んだ部屋の中で窒息死するのもバカらしい話だ、と思いながら部屋に帰る。うるさかったあの子の笑い声はもう聞こえない。
少しずつ息を整えて、僕は暮らしていく。