音楽やってます

「普段何してるんですか?」と初対面の人に聞かれたら「出版社で編集の仕事をしています。あと、音楽を少しやってます」なんて答えている。
音楽をやっているって一体なんなんだろう。
中学生の頃、なんとなくギターを始めた。実家に母親のクラシックギターがあったから、ふと触ってみたのが最初だ。
しかし、そのギターではゆずやGLAYは弾けなかったからすぐに飽きた。
その後アコースティックギターを買ってもらった。それからはなんとなくゆるりだらりとギターを触ることが増えた。
家にいてもしたいことはなかったし、親との関係も良くはなかったけどギターを弾いてる時は楽しかった。
覚えていないけど、多分Fとか押さえるのは苦労していた気がする。でも、そんなこともう覚えていない。
久しぶりに開いた弾き語りの本の中でストロークのアップダウンをちゃんと弾こうとした跡が残っていて、なんだか懐かしくなった。
今ではなんとなく弾けるけれど、あの頃は弾けなかったんだと思う。
気づけば初めてギターに触ってからもう20年以上が経っている。
まさかずっとギターを弾いてるとは思わなかったし、曲を作って歌うのが当たり前になるとは思わなかった。
僕にとって音楽は自転車に乗る程度のもので、たまにすごくいい景色を見させてくれる。
最初乗るまでは時間がかかったけど、今となっては乗れない頃には戻れない。
とてつもなく日常と密接にくっついた存在になっている。だからこそ、僕は初対面の人に「音楽をやっている」と自然に言えるし、別に間違っているとも思っていない。

僕の今の彼女は最近ギターを始めた。
まだ覚束ないけれど、多少弾き語ることもできる。そんな彼女と僕は一緒に暮らし始めて2週間ほどだけれど、彼女はどうやら僕といるとギターの練習ができないらしい。
僕といることの方が楽しくてギターを触るよりそれを優先してしまうのだそうだ。だから、実家に帰ってギターを練習するという。しかも、僕程度にひけるようになるまで。僕の家と彼女の家はそれなりに近いし、別に会えなくなるわけじゃない。

だけど僕はギターなんか弾けなければ良かったと思った。僕は別に、誰かに見せびらかすためにギターをやっているわけでも歌を歌ってるわけでもない。気づけばそれが当たり前だっただけだ。好きになった人との関係性を壊すほどのものなら触れなければよかった。

そんなことを嘆いても、出会ってしまったものは仕方ない。付き合ってしまったことはありがたい。それでも僕は、歌なんか歌わなければ良かったという気持ちを消せないでいる。 
どうせ、なんの意味もない人生なのになんで自分からまた一つ意味を失うようなことをしているんだろう。
美しい景色を見たいと思って続けていた音楽に、なんで気持ちにさせられんだろう。
あーあ、音楽なんかなければよかった。

それなのに、もしまた彼女と上手くいかなくなったら僕はきっとまた曲を作るんだ。もうみっともなくても滑稽でもそれしかできないことはわかってるんだ。馬鹿みたいというよりむしろもう馬鹿なんだけど、どうしたらいいのかな。
教えてくれる彼女は部屋にいないし、体はどんどん寒気を帯びる。
死にたくないけど死ねたらいいなと少し思ってしまう自分は本当に馬鹿で可愛い。
僕が死んだら僕の音楽をよろしくお願いしますね。可愛がってあげてください。

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