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プツッ

何かがプツッと途切れたような感覚がした。
いつものように朝から洗濯機を回して、風呂に入る支度をしている。
とてもいい天気だけれど「ああ、またこれか」という気持ちはどうにも拭えない。
恋愛沙汰において、この感じは付き物かもしれないがそれにしても脳と頭蓋骨の隙間に薄暗い塊を詰め込まれたようなこの感覚はどうしたって好きになれない。わかり合えない部分を「だからどうした!」と思う力が弱まることは、即ち愛情の低下なのだろうか。
「まあ仕方ないよね」は果たして本当に諦めなのだろうか、と考えても仕方のないことを考えている。
なんだか、自分がひどく面倒くさい人間に思えて「だから、人と付き合うのは向いてないんだよ」と毎回の逃げ口上が頭の中で響く。
人と同じか少し多いくらいには恋愛経験もあるはずなのに、誰も残らないのは結局僕自身の欠陥だと思うし、実際そう思っていたほうが気が楽だ。
その欠陥はおそらく既に僕のシルエットの大きな部分に関与しているであろうことから、修正されることは無いと思う。
さっき家を出て行ったあの子もきっとそのうちそれを再確認していなくなってくれるんだ。

「物が多いのに寂しい部屋」と言われたこの家には僕の好きなものや大事なものはほとんどない。楽器も服も本も、1番好きだったものはとうの昔に壊れたり無くしたりしてしまった。なのに、それ以外のものはどんどん増えていく。
結局人間関係も同じで、大事になったものから無くなって行ってしまうんだろうな、と思う。そろそろ、僕もなくす事に慣れていかなくてはいけない。この、物で溢れてる部屋を一度まっさらにして。そうでもしないとこのままいらないものと下らない思い出で窒息死してしまいそうだ。
ちょっとその辺に手を突っ込めばいつの彼女がくれたのかもわからない手紙が出てくるような部屋を捨てなくちゃいけないことは本当はわかっている。僕を守るこの部屋は、誰かを傷つけることもまたひどく得意だ。
結局全て「面倒くさい」んだな、と思う。
部屋を片付けること、好きな人に好きだと伝え続けること、大事なものを大事に扱うこと、全てが面倒くさいんだ。
面倒くさいけれど、それを壊れていくまま見てることができない程度には神経質なんだ。
大好きな人に大好きでいてもらえてるか不安になるのがたまらなく嫌なんだ。
不安な気持ちになるくらいなら、いない方がいいと思ってしまうから、どうしたって誰とも暮らせない。

考え始めるとモヤモヤしていた気持ちは濃度を増して、すっかり黒くて暗い拳大の闇に変わる。それを頭蓋骨と脳の隙間にもう一度無理やり詰め込んでみる。クラクラしていた考えが少し固定されたような気持ちになる。
僕は僕に対してなにができるんだろうか。
なにをすれば僕は僕を救えるんだろうか。
なんでこの年になるまで、誰もそれを教えてくれないんだろうか。
今日も明日もそんなことを考えなくてはならないなら「プツッと切れる」なんていうようなものではなく全て終わらせてしまうほうがいいのだけれど、それすらももう面倒くさいから埃っぽい部屋の片隅で積み上げられた要らないものと一緒にぼーっとひだまりを眺めている。
ぼーっとひだまりを眺めている。
このまま、この部屋の一部になって、誰もいなくなる世界の中で、いなくなってしまった人になりたいな、と思った。

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