【掌編】流星グランプリ #秋ピリカグランプリ2024
今までにないくらいの手応えを二人は感じている。繰り出すボケの一つ一つに、笑いが絶えない。センターマイク向かって左、ツッコミのイイダテは、それを恐ろしく思うくらいにふわふわとしている。こいつ、たぶん、ゾーンに入ってる。イイダテは向かって右、サワタリのボケの一つ一つを掬い取る。絶対、優勝できる! 向かい合ったとき、お互いの目はそう言っていた。そのときだ。
――パタン。
それはサワタリのポケットから落ちた。狂ったテンポを戻すように、サワタリはそれを拾う。イイダテは、さっきまでの恐ろしさの種類とは、明らかに違う怖さを感じた。不安の雲が空気を食べている。
「それでさ、おまえがたぶん先に死ぬと思うからさ、葬式用の弔辞を考えてきたんだ。練習しようぜ」
「なんで俺が先に死ぬんだよ」
「そう決めたんだよ」
「決めるな」
笑いは起こっている。が、どこかぎこちない。
「イイクラへ」
「名前違うから。おれ、イイダテ」
イイダテは、もうそれが何かわかっている。ここから先はきっと、漫才ではなくなる。そう思いながらも、サワタリを止めることはしないでおこうと、イイダテは思う。
「イイクラ、覚えているか?」
「覚えてねえよ、おれ、イイダテだから」
「おまえとはじめてコンビを組んだ日のこと」
「コンビを組んだ日かあ」
「おまえは星組で、俺は月組だったんだよな」
「宝塚? おれら宝塚だったっけ?」
「幼稚園だったな」
「いや、幼稚園行ってないから俺、保育園育ち。いいやもう、イイクラくんの思い出語れ!」
「幼稚園で、うんこ漏らしちゃってからかわれてた俺を、お前は「誰だってうんこくらいするだろ!」って、みんなに言ってくれたな」
「そりゃ、うんこくらいするもんな」
「その日にコンビ組んだよな、うんこーずっていう」
「子どもですから、みなさん、大目に見てやってください」
「それからなんやかんやあって、お前、死んじゃってさ」
「いや、端折りすぎじゃない? もうちょっとあるでしょ、イイクラくんの思い出!」
「俺が解散するって言うたび、追いかけてきて、ごめんって言ってくれたんだよな、あの日も俺を追いかけてきて、事故に遭って……ごめん、俺、最後まで、ごめんって言えなかった」
サワタリは、ボロボロ泣いている。演技ではないそれに、もはや誰も笑うことはなく、サワタリは自分勝手に「ありがとうございました」と頭を下げた。イイダテはそれに合わせて「いいかげんにしろ」とだけ小さく言った。会場は異様な雰囲気になり、得点は案の定、伸びることはなかった。
ふたりは、優勝したコンビを眺める。どうしてあの手紙が入っていたのか。まだ理解できない。優勝を祝う金色の紙吹雪が降っている。ふと視界に入った紙吹雪に文字が書いてある、と気づく。その一つ一つが連なる。
誰・だ・っ・て・う・ん・こ・く・ら・い・す・る・だ・ろ
まるで流星のように流れたそれを、ふたりは見ながら願いを込めた。
来年は優勝しようぜ。
(1199文字)
秋ピリカグランプリに応募させて頂きます、よろしくお願いします!
流星グランプリの優勝を目指しております。
#そんなものない