伝説の安心感 #毎週ショートショートnote
「間々田さんの部屋」が使用中になっている。仕方なくコーヒーを買って、トーキングスペースに腰をかけた。
そこに、間々田さんがいた。
「間々田さん、部屋にいないんですか?」と声をかけると間々田さんは「あの部屋には、いつもいませんよ」と答えた。
間々田さんの部屋は、クレーム処理班の心が壊れそうになったときに訪れる部屋。仕切りで区切られているが、そこに間々田さんがいて、話を聞いてくれるのだ。間々田さんと話すと心に安心感が広がる。それはもう伝説と言っても過言ではないくらい。
「あれは私の声のAIが喋ってるんです」
「え? うそ!」
と驚いたけれど、確かに仕切り越しにしか間々田さんを知らない。「でも」と間々田さんが言う。
「あなた、私が「間々田」だってよくわかりましたね。顔は知らないと思うのですが」
顔は知らない。でも疑いもしなかった。
「だって、安心感が同じだったので」
間々田さんは微笑み、言った。
「私にとっては、あなたが間々田さんです」
(410字)
今週も参加させて頂きました。
ありがとうございます!
毎回、さすがに書けないよなあと思うのに、気が付くと書いているのは何故なんでしょう。それこそ、何を書いても大丈夫だという、伝説の安心感があるのかもしれないと思っているところです。