顔自動販売機 #毎週ショートショートnote
どこもかしこも顔認証したがる世の中である。ごはんを食べたいだけなのに、顔認証を通らねばならないし、本を読みたいだけでも、顔を機械に映さないとドアすら開けてくれない。別に何もやましいことはないが、気分はよくない。性善説ってもう、この世にはないのだろうか。
そしてここにもまた、顔認証が。
自販機の前である。飲みもの1本すら、悪い子にはくれないのか。まあ、仕方あるまい。とりあえず認証しておくか。そう思い、顔マークの液晶画面に、顔を合わせる。
「こんにちは」
と自販機に声をかけられる。
「え?」と固まった顔になる。
「そんなにかしこまらなくても。元気?」自販機の声には聞き覚えがある。その声が記憶をたどり、どうやら涙が出ていることに気がつく。
「やだなー、泣かないでよー」
自販機は含み笑いをする。その笑い方があまりにも懐かしい。それは数年前に亡くなった母のもの。
「元気出しな」
母の声はそこで途切れる。
顔認証画面で、母が笑っていた。
(407字)
毎週ショートショートnoteに参加させて頂いております。
母が亡くなってからも、こんなふうに母を思い出したりしてしています。
表紙画像にも使いましたが、noteを書きはじめたころの作品に、こういうのがありまして。
このときはまだ母は生きていましたが、亡くなったあとに、まさにまだいるんだなあと感じているこの頃です。