丸腰でこい #シロクマ文芸部
「文化祭のカラオケ大会で、100点とったら付き合ってほしい」
告白されそうな雰囲気だなと察してから、数秒前まで「うん」という言い方をどれだけ可愛く言おうかなって考えてた。だけどもうその数秒前は彼方にいってしまったと思う。わたしの返事は、好きなひとへのものとは自分でも思えなかった。
「あのさ、あなたが100点とるのと、わたしと付き合うのは、なんの関係があるの?」
まったくもって可愛くないと自覚する。でも、彼の言っていることは、どうも腑に落ちない。
「俺、自信がないんだよね。だから100点とったら背中を押されそうな気がして」
「じゃあ、100点じゃなかったら付き合ってほしくないの? ていうか、100点とわたしの気持ちは関係なくない?」
まくしたててしまう。ああ、ほんとに可愛くない。そのうえ彼は「じゃあ、95点以上!」と見当違いの発言をしてくる。
「だからさ、そうじゃなくて、丸腰で来てほしいのよ、何点とったらとか、そんなのどうでもいいの。自信がなくてもいいの。自信がなくても、わたしを好きな気持ちには自信があるんでしょ?」
「え?」
「ないの?」
「あります!」
「それだけでいいんだよ。そもそも80点くらいでしょ、いつも。100点なんて、そんな無理する必要があるの?」
とまあ、そんなことを言うのだけど、すっかりこの話の終着点がわからなくなってしまって、わたしはふぅっと、ため息をついてしまう。しかも彼は「そうか、だめか……」とまったくこちらの意図が伝わらないので、なんだか変な空気になっている。
その空気の中で彼は突然歌い出すものだから、ますますカオスが広がっていく。いや、なに、急に歌われても。とちょっと引くくらいになったのだけど、その歌声が思いもよらず、なんかいい。たぶん採点されたら80点もいかないんだろうけど、丸腰でくる感じにゾクゾクする。
「やっぱり100点なんて無謀だったよな」
彼がつぶやく。
「そりゃ無謀だよ」と、わたし。
「だよな」
「100点目指すより、わたしに告白するほうが確率高いって」
「そうなの?」
「そうだよ、でも目指すんでしょ?」
さて、なんて答えることやら。わたしにとっての100点の回答をしなよね、文化祭が来る前までに。
あれができたら告白しようとか、これを達成したら付き合ってほしいとか、そういうの男子の世界にはありがちなんですが、相手からしたら関係ないんですけど〜、という話で。
今週もありがとうございました!
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