節目
ツマとまだ結婚していなかったときの、とある年末。
動物園にあるレストランで、窓から見える池を眺めていた。
カモがのんびりと泳いでいる。
「のんびり見えるけど、足はめっちゃバタバタしてるんだよね」
などというぼくの言葉に「そうだね」と頷く(まだツマではない)ツマ。
コーヒーを口にして、ひと息付いて、
イルミネーションに目をやる。
人間は節目を付けたがるけれど、
動物にもそういうのあるんだろうか。
たとえば、明日は新年だから今日は年越しエサ食べるぞ! みたいな。
などとぼくが4割程度遊びを含めたことを言うと、
(まだツマではない)ツマが、うんうん、と堰を切ったように興奮し出した。
「それ、わたしも思ってたんだよ!
人間はさ、いちいち節目を付けたりするけど、
動物は人間の決めた節目とは関係なく生きてるんじゃないかってさ!」
ふと「星の王子さま」で、キツネの木曜日のことを思い出した。
猟師は木曜日に村の娘とダンスを踊るから、キツネにとって木曜日は自由になれる日だ、
というところ。
人間の行動が動物に何かに影響を与えることは本当だけれど
でも、目の前のカモはやっぱりバタバタとのんびりしている。
けれど閉園時間になって誰も居なくなって、知らない宴をはじめるのかもしれない。
「人間には節目が大事なのかもね。
たぶん、そういうのがないと、ヒマなんだろうなあ。
そういうことをしないと、忘れちゃうことが、きっとあるってことだと思うなあ」
(まだツマではない)ツマは「そうかあ、じゃあ節目はあったほうがいいんだね」と言った。
のんびりしているように見えても
足元はバタバタとせわしないカモのように
見えない部分が誰の中にもある。
それでも何かの節目がきて
何かを思う。
ツマになってもツマは、バタバタしている。
年末の空気が何か自分を飲み込みそうだと、バタバタしている。
だいじょうぶ、節目はただの暇つぶしだから。
ぼくはそう言って、ゆっくりと、お茶を呑む。
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