呪いの臭み #毎週ショートショートnote
職員室に持ち帰った漢字ドリルに丸をつけている。○、○、○……と流れ作業のように続けていると、漢字たちがゲシュタルト崩壊して酔う。気持ち悪い、というか、臭い。ん? 焦けすぎたウィンナーのような臭みがある。
「これ、臭くないですか?」
同僚に聞いてみるけど、「いえ、臭くないですよ」との答えが返ってくる。そうですか、とうなずくけれど、やっぱり臭い。どのドリルも同じように。
「失礼します」と言って、児童が入ってきた。プリントを持ってきたその子に、「これ、臭わない?」と聞いてみる。
「いい匂いにしてあげましょうか?」とその子は言う。
「ファブリーズでもかけるとか?」
「そのドリルの臭い、『呪い』という字から出ています。呪いの臭みです」
確かに臭みは『呪い』が何個も書かれたページから放たれている。どうしたらいいのか。と思っていると、その子は『呪い』の口を消した。そして付け足す。
祝い、祝い、祝い……
ショートケーキの匂いになった。
彼女が魔女だったことはまだ知らない。
(424字)
お久しぶりの毎週ショートショートnote投稿です。
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