最後のマスカラ #毎週ショートショートnote
「マスカラ付けて生まれて来たんじゃない?」
出産祝いに来てくれた友だちが、わたしの息子の顔を覗くなり、そう言った。たしかにまつ毛がやけに長くてクルンとしている。マスカラ付けて生まれてきたのは、ほんとうかもしれない。
「わたし、どんなかっこで出産したか知ってる?」
「どんなって、普通の出産じゃないの?」
「出産は普通だったんだけど」
出産は予定日よりだいぶ早くやってきた。まだ産まれる気配はないと感じていた日がハロウィンで、わたしはなぜかオバケのQ太郎のカッコをしていたのだった。Q太郎はパッチリおめめなので、マスカラを過剰に使うことにした。まつ毛をクルンとさせてる最中に陣痛がきた。え? この恰好で? と思うがもう遅い。O次郎の夫と病院に向かって、Q太郎のまま出産したのだ。O次郎立ち会いのもと。
そのマスカラが、どこかに行ってしまった。出産前の最後のマスカラ。
「この子が付けてきたのかも」
目を閉じたまつ毛が、それはそれは美しい。
(411字)
2週サボってましたが、今週は書けました。
まつ毛目に入って涙目になることもある我が子です。