ブーメラン発言道 #毎週ショートショートnote
ブーメラン発言道沿いの図書館の前、彼女が立ち止まって、思い出したかのように言う。
「金子みすゞっていう詩人の「こだまでしょうか」っていう詩、知ってる?」
わたしは「知らない、どんな詩?」と答える。
彼女は「わたしも知らない」という。
「知らないの?」
「知らないの」
知っているかのように聞いておいて、知らないとはなんだかモヤモヤするのだけど、そういうことはよくある彼女。そういうところにキュンとなるのもどうかと思いながら、彼女のペースに巻き込まれる。
「調べてみようか?」
「調べてみようか」
図書館に入り、金子みすゞの詩集を見つける。彼女は金魚のフンみたいにわたしに付いてきて、「あった?」と聞く。
「あった」
見つけた「こだまでしょうか」を読み終わって、わたしは彼女にちょっとふくれた表情を向けた。彼女も同じ顔になっていた。
「知ってたよね?」
「知ってたよねー」
彼女が笑うと、わたしも笑った。
「大好き」
綿のようなブーメランが帰ってくる。
「大好き」
(414字)
今週も、毎週ショートショートnote企画に参加させて頂きました。ありがとうございます。今回は書けそうにないなあと思いながら、気が付いたら書けてました。
「ブーメラン発言」というと、自分の言った悪いものが返ってくるというイメージがあるのですが、何事も言葉や行いは返ってくるものだと思います。
そういう感覚で、金子みすゞの「こだまでしょうか」が浮んできたので、取り入れてみました。
鋭利なブーメランではなく、綿のようにふわっと戻ってくる、そんな言葉を投げかけていたいものです。