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第12回 『ロビイングの政治社会学』のためにどう調査した?

————:ありがとうございました。いま話題になった世代論のところで、小杉先生いかがでしょう?

小杉:私もまさにそれを考えながら読みました。『社会運動の現在』のところで話した、運動の多様性というところにもつながるんですけれども。たとえば富永京子さんが論じておられるような、ライフスタイルと社会運動の重なりみたいなこともありますよね。スタバに行かないとか、ファストファッションは着ないとか。そういう運動もある一方で、国会にロビイングする運動もあって。

1960年代の学生運動参加者は、どちらかというと「スタバを使わない」派というか、社会との関わりのなかで自分の生活をいかに変えるか、自分の思想信条にいかに誠実に人生を合わせていくか、というほうが強くて、私もずっとそういった運動にひかれてきました。ですので、原田さんの本はまさにめまいを感じながら読むというか。大河ドラマというのもそうですけど、キーパーソンになる法制局の橘さんをはじめとして、運動がこういった人と交渉するのかと驚きつつ読みました。

そのとき頭にあったのは、須田春海さんとか、学生運動世代の人たちのことです。須田さんを直接は存じ上げないんですけど、長谷川先生がよく須田さんのことを話されていて。学生運動から国会での交渉に至るまでの紆余曲折というか、経験の積み重ねで学生運動とは大きく違う運動の現場に至ったのかなと、想像をめぐらしながら読みました。阿部知子さんとか、全共闘出身の国会議員の方もいますし、学生運動じゃなくても、辻元清美さんは運動の現場出身ですよね。個別の運動と、「低廉性」が問題になるようなロビイングの現場の両者を股にかけることのできる人材と、そうではない人がきっといるんだろうなと思って、どういう人が両者を股にかけるようになるんだろうと気になりました。あと、研究者のほうも自分が共感を持って研究できる対象はそれぞれ違うと思うんですけど、私は「ロビイング」は研究できるかと言われると、学生運動と違ってちょっと難しいと思うし……。

インタビューを読んだ印象ですけど、経験豊富な官僚の人と対等に聞き取りをするのは、自分にとってはすごく難しいだろうな、と。原田さんはそれをされているので、すごいなと思いつつ、運動研究者としてここに行ける人はどういう人なんだろうな、というのも気になってしまいました。それで、さっき住民運動の話をされていましたよね。住民運動も実際に成果を生み出さないいけない部分がある運動だと思いますし、行政と相対する運動ですから、そこでロビイングと共通する部分がある。そういうバックグラウンドがあったんだな、と感じました。

原田:なるほど……。私が自然にいろいろな人たちとお話ができてしまっていたのは、たしかになんでなんだろう。逆に、小杉さんの『東大闘争の語り』を読んで、自分には東大闘争の研究はできないかな、と思ったのは、じつは父が東大闘争に参加していたんですね。私にとっては東大闘争は身近すぎてというか、あまり触れられないようなところがありました。逆に東大にいたこともあって、官僚になるような人たちが周りにいたので、そこと自分はそんなに違和感なく話せる。運動やっている人とも、政治家の人とも、官僚の人とも……「コウモリ」みたいになっちゃうのかもしれないですけど、そんなに態度を変えずにインタビューできたかな、と。逆に自分だったら、みなさんがやっているような調査は難しいと思いますし、今日の『問いから』の話を聞いていて、みなさんそれぞれ幸運なめぐりあわせというか、フィールドとの出会いもそうですし、そのうえで調査ができているのかな、というのはお聞きして思いました。

青木:最後に一つだけ。学生のためにというか、個人的にも気になるんですが、原田さんが『問いからはじめる』に書くとしたら、ぜひ官僚や政治家の方々にどういうアポイントのメールを送ったのかファーストコンタクトはどうしたんだろうというのが、気になるところです。私には想像もつかないというか、どういうつながり方をしたのか。

原田:ありがとうございます。衆議院法制局の橘さんとのファーストコンタクトは、NPO法編纂プロジェクトだったと思います。今は法制局長になられましたが、NPO法の制定当時からいろんな局面に関わられてこられた方です。ファーストコンタクトは、編纂委員会のほうで、山岡義典さんが頼んでくれたのかな。NPO法の編纂プロジェクトをやるので、インタビューに応えてくれませんかというふうに頼んだら「いいですよ」と。私はそのときのテープ起こし担当というかたちで名刺交換をさせていただいて、その後は法制局にお邪魔して個人的に2回インタビューさせていただきました。

このファーストコンタクトは、やっぱり学生だけではちょっと難しいかもしれませんね。私の場合はたまたま編纂プロジェクトで、企画としてゲストとして来てくださって接点がありました。また、本来だったら法制局の方って、お名前を出してインタビューに応えるってなかなかない立場だと思うんですけど、橘さんはすごく稀有な存在で、こういったプロジェクトにご理解があって、また私が書いたものに毎回コメントを返してくださるくらい、研究にもご関心がある方だったのでインタビューができたのかなと思います。
政治家のインタビューについては、国会議員では辻元清美さんと堂本暁子さんのお二人は編纂プロジェクトで親しくさせていただいて、その後も、という感じでした。もともとお二人ともこういったNPOとか運動出身なので、すんなり応えていただけたと思います。

他方で私自身、よくできたなと思うのは、自民党や公明党の議員の方にもインタビューしているんですけど、それは正面切って議員事務所に手紙を送りました。こういった調査をしていて、インタビューに応えていただけないでしょうか、というかたちでお手紙をお送りして、秘書の方に電話をして、OKしてくれた場合にインタビューしています。断られることも多かったものの、正面切って事務所に手紙を送って、秘書の方と電話で調整して、ピンポイントで30分調査させてください、というかたちでやってみたら、意外と応じていただけたというのがあります。

学生さんたちも、市議会議員や県議会議員の方とか、同じようなやり方でお手紙を送って、秘書の方と電話で調整して……とやれば、答えてくれる方もいらっしゃるかもしれません。そこは参考になったらいいなと思います。

————:ありがとうございました。ご自身の研究の「きっかけ」から、最後は具体的な方法の話まで、これから研究をはじめる方々には、おおいにヒントになるのではないでしょうか。

座談会に冠した「2020年代」はまだまだこれからですし、社会運動論の研究がますます盛り上がって取り組まれることを期待しております。

(座談会連載「2020年代の社会運動論」おわり)


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